雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

SS「冬の星座」

 

こんばんは。外は寒いです。家の中は、寝てて自分で布団を剥ぎ取ってしまうほどあったかいです。猫屋敷なので。

でも外は寒いです。晴れてるとなおさら。冬の夜って、星座が派手だから寒くても許す。みたいなとこあります。

ゆうべに引き続き今夜も素晴らしいです。寒さと星が。

 

ゴミ捨てに外に出たらオリオン座とその周辺の派手な星空が、2か月前には東のほうにあったのが、すっかり西に傾きました。まあ時間も違うんだけど。

あまりに派手なものでついおはなしを書きました。話の中では木星になってますが、実際の惑星は真っ赤な火星です。

 

泊まってる温泉は、なみたろうさんのご指摘どおりたぶんここ:

「早春賦」

目が良すぎて星がよく見えると言い張る薪さんのおはなし:

「不知夜月の夢」

 

折りたたみのあと、ついったと同じもののベタ打ちと、少しおまけがあります。

 

 

*****

 

冬の星座

 

 

 薪が散歩に行くと言い張るので、気が狂ってると思いながらセーターを着込み、旅館の半纏を重ねてコートを羽織って、マフラーに手袋まで装備した。それでも一歩外に出れば、晴れて冴えた闇のはるか向こうの真空の、そのまた向こうの星空は、都会では見られない満開ぶりだ。

 「星が多すぎますね。あれは木星かな」

 「だろうな。牡牛座の中でアルデバランより明るい」

 「あなたはすばるは何個見えますか」

 「10個」

 「嘘でしょう」

 「おまえは」

 「ひとかたまりにしか見えません」

 「見えないくせになんで嘘だってわかるんだ。そもそもひとかたまりじゃ、ほんとにすばるを認識してるかどうかだってあやしい」

 「冬の星座ですよ。オリオン座のすぐ隣で、形くらいわかってます」

 もう少し眺めて理系っぽい話を聞きたかったが、マイナス5度をさらに下がりつつある屋外ではこれ以上厳しかった。

 「戻りませんか」

 「南国育ちめ」

 「いや東北人だって歩きませんよ、氷点下の空気の中は」

 「もう少し見ていたい。こんなに晴れた夜空」

 「あなた自分が冷えてるってわかってないんでしょ」

 青木は自分の大きなコートの前を開くと、後ろから薪を包み込んだ。「あ。これならもうしばらく、見物できます」

 「そうだな」

 薪がくるりと半回転して、向かい合わせになった。「ときどきこうやってあっためる側を替えれば、もっといい」

 「言っときますけど、限度がありますからね」

 捜査が佳境に入ると「倒れますモード」まで突っ走る薪は、遊びに夢中になった場合も周りを見失うことがたまにある。自然や芸術に触れたときには特に要注意だ。

 「こまかいことばかり言ってないで、空を見ろ」

 30センチ近く下のほうで見上げる双眸は、青木を通り越して漆黒の海に漂う恒星の波を映している。

 「見てます」

 コートの内側で回した腕で細い肩を守りながら、青木が答えた。

 

*****

 

このあと、寒さに耐えられなくなった青薪の会話です。

 

 「……青木」

 「なんでしょう」

 「頭が痛い」

 「ほらあ!」

 「北東北の寒さはしみるな」

 「ここいらは本州以南でいちばん寒いとこなんですからね。部屋に戻りましょう」 ※このへんは秋保温泉ではなくわたしんち周辺の話です

 「前を開けるな」

 「え。と。難しいですね」

 二人羽織状態でえっちらおっちら歩く青薪。

 「いまベテルギウスが爆発すればいいのに」

 「あったかくなるんですか」

 「バカか。ここから見るのは642年後だ」

 「爆発したのが642年前なら」

 「宇宙空間を熱が飛んでくると思ってんのか」

 「……いいえ」

 「この距離ならガンマ線の影響だって、ない」

 「じゃあなんで爆発が見たいんですか」

 「興奮して、あったかくなるだろ」

 そうかな、と思う青木。興奮してプロポーズはするだろうけど。

 

ベテルギウスが爆発しなかったときの雑記:

秘密のスーパーノヴァ

爆発した場合の雑記追加:

メロディ2021年2月号 追加

 

 部屋に戻ると当然、備え付けの露天風呂に入ります。

 「ああ寒かった」

 「マイナス8度ですって」

 「ここいらは3年に一度はマイナス20度まで下がるらしいぞ」

 「想像がつかない寒さですね」

 「マイナス20度だと、寒冷地仕様の車でもエンジンがかかりにくくなる」

 「下手すると死ぬじゃないですか」

 「古い家では窓が凍って開かなくなるし、金属のドアは開けた途端に歪んで閉まらなくなる」 ※全部管理人の体験談です

 「マイナス20度でそれじゃ、シベリアのマイナス70度になるあたりでは、みんなどうやって生きてるんですかね」

 「人間ってやつはどこにでもいるからな。青木」

 「はい」

 「頭が痛い」

 「またあ!」

 今度はのぼせた薪さんを抱いて風呂からあがります。

 「なんだってあなたはそう極端なんですか」

 実は薪さんは、青木がいるから油断して甘えてるんです。

 

 わたしのお風呂話にはありがちな展開。

 という、どこまでもほのぼのしてる青薪でした。