雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

「めぞん鈴薪青 同居人」

 

こんばんは。

現在、ついったでは何度目かのリレー小説がもりあがっています。何度目だっけ? いつも混ぜていただいてありがとうございます。青木の誕生日の前にはまとまると思いますので、またご紹介がてら過去のものももくじ的に再掲させてください。

リレーの醍醐味はおはなしが思わぬ方向に曲がっていくことですね。今のところ目隠しとかアイスあーんとか鈴木さんとかが登場しています。お色気(?)お風呂シーンは今回課題設定だったので予定調和ですが、それでもそこに至りそうになるたびに界隈がざわつきました。「風呂? 風呂か??」って感じで。

 

そして迫り来る青木の誕生日の準備は進んでいませんが……ここ数日は不眠がおさまって?過眠となっています。使えなさ度はこっちのほうが深刻です、一日中眠いんで。

 

まあでも今夜はちょっと頑張った、猫さまたちの新しい家族が決まったので、その帰りに考えながら運転してたおはなしをやっとまとめました。

この尊い世界線の青木は以前も猫を拾っています。

→ SS「めぞん鈴薪青 闖入者」

このときは鈴木さんの部屋にみんなが集まったんでした。

 

あと久しぶりに赤ピーマン(またはパプリカ)のムースを出したので、どんだけ出したっけ、と数えてまとめました。

ムースが出てくるおはなし:

「わがままな晩餐」

「ミケランジェロにくちづけを」

「ヴィンテージ」 

 

左から、ゆず(仮名)、わさび、ぽんず。

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心配しましたが順調に人馴れしてるようです!!

 

 

そうそう猫といえば、クリアファイルを額装したらいい感じになったので見てください。

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もう飾る壁がなくて、っていうかうちあんまり壁がなくて、床置きですが。

A4のクリアファイルが入る額はオタク向けに百均にあるんだけど、B5のはないんですよね。周囲を埋めるために頑張りました。

 

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めぞん鈴薪青  同居人

 

 「薪」

 22時をまわったばかりの、まだ眠るには早い時間だった。ドアにノックの音がして、返事もしていなければ入っていいとも言っていないのに、鈴木の長身の気配がした。そのまま狸寝入りをきめこんでいると、薄く点けた灯りの中で枕のそばにしゃがみこむ様子が伺えた。

 「具合悪いの」

 「別に」

 「寒くないか」

 「問題ない」

 「夜メシ、食う?」

 「うるさいな、寝かせろ」

 「夏のパリなら陽が沈んで間もないぞ」

 「ここはパリでもなければ、今も夏じゃない」

 「おまえの好きな赤ピーマンのムース、作ったんだけど」

 そこで薪はついに諦めて、ハナまで引っ張り上げていた毛布から首を出した。

 「おまえが?」

 「うん。丁寧にピュレを濾して。スプーンも持ってきたし、食べさせてやるよ」

 薪がこたえずにじっと鈴木の目を見ていると、長い太い指が前髪をなでた。

 「わさびもぽんずもゆずも、みんな同じ家にもらわれていったんだよ」

 「うん」

 「野良猫のままだったらいずれ離れ離れになるし、ずっと一緒にいられるんだ。これでよかったんだ」

 「だけど僕たちが1人1匹ずつ、面倒をみればすむ話だったじゃないか」

 「俺はそれでもいいけどさ。青木が次から次へと仔猫を保護してくるのに、全部の世話はできないだろ。このあと出会うはずのもっとたくさんの猫たちを助けるためにも、もらい手が見つかったら手放したほうが、幸せの数が増えるんだよ」

 「正論を吐くな」

 「おまえは一旦拗ね始めると、手間がかかるな」

 鈴木はやさしくそう言うと、ベッドの縁に置いたガラスの器に手を伸ばした。

 「食べるだろ。起きて」

 薪は指示に半端に従って体制を崩さずに、口だけをパカッと開けた。

 「ツバメの雛みたいだぞ」

 「仔猫の気分なんだよ」

 そこへ別のノックの音がして、屋外の冷たい空気をまとった青木が入ってきた。玄関から直行してきたらしい。

 「薪さん」

 「どうしておまえらは、僕の部屋に勝手に入ってくるんだ」

 「俺、今夜ここで寝てもい……あれ、鈴木さんも」

 「よお」

 「何やってんですか」

 「デリケートなお姫さまにおやつをあげてた」

 「その色は、得意技のムースですね」

 「おまえの分も冷蔵庫にある。持ってくれば」

 青木はそれに従っていったん下がり、さらにふたつの器を運んできた。透き通った丸いグラスと陶器のスプーンが、お盆の上でカチャカチャと音を立てた。

 「長い道のり、ご苦労だったな」

 鈴木がねぎらいの声をかけた。隣に座り込んだ男は、片道2時間半の運転を終えて、猫の親子の新しい家族の家から戻って来たところだった。

 「保護猫で一番大変なパートは、いい家族を探すところですからね。保護する苦労も、病院に通ったりごはんをあげたりする手間も、長距離の道のりだって、里親探しの緊張に比べたらなんてことありません」

 「どんな人たちだった」

 「若くて穏やかなご夫婦です。まだ人馴れ訓練が必要なゆずも、あれなら気長に付き合ってくれますよ」

 「わさびとぽんずはびびってなかったか」

 「ソファの下に隠れてましたけど、小さい人間の子供がふたりいるので、そのうち一緒に寝るでしょう」

 「どっちの柄がいいとかって、取り合いになるんじゃないだろうな」

 「薪さん。大丈夫ですから」

 青木は自分のぶんのムースに匙を突っ込んだ。「俺が直接会って、話して、確認してきたんです。仔猫のくせにシャーシャー威嚇するきょうだいをかわいいかわいいって言って、お母さんまでまとめて3にん、お迎えしてくださるご家族なんですよ。幸せにしてくれます」

 「シーバかクリスピーキッスを持たせてやるんだった」

 「ロイカナのベビキャットを持参しました、ちゃんと食べてました」

 「ちゅーるは」

 「止めたって買うようになります」

 「新しい首輪――」

 「ああもう、少し黙って食え」

 ついにムースが口に突っ込まれて、薪はスプーンをかじったままその曲面に載ったオレンジ色の好物を舐めた。「うまいだろ」

 「うん」

 「来春には、いやでも次の仔猫が来ますから」

 「僕はもう面倒みないぞ」

 「え」

 「情が移ったら別れがつらくなる」

 「薪さんは最初もそう言って、抱っこして寝る以外なにもしてなかったじゃないですか」

 「抱っこもしない。ベッドにも入れない」

 「はいはい」

 「なにもしない、むぐ」

 「黙って食えってば」

 気づけば青木はソファに横になって毛布をかぶっている。寝たままおやつのようにデザートを味わう行儀の悪いルームメイトたちを見て、鈴木はため息をついた。

 「俺が手間をかけた逸品を」

 「鈴木さん、ご自分は食べないなら俺がもうひとつ」

 「ふざけるな、「コートドール」のスペシャリテだぞ」

 「自分の腕を三つ星と並べるんですか……」

 「僕のために作ったんじゃないのか」

 「そうだ。そうだった、青木に2つもやらない」

 本日の功労賞をもらうはずだった男は、最後のひとくちをしみじみ味わってしばらく無言になった。

 「たぶんこんな感じになりますよ」

 「なにが」

 「誰にどのおやつをあげるとか、一緒に寝るとか寝ないとか」

 「かわいがられるのはわかってんだよ」

 そうだ、そんな心配なんかしていない。薪がさびしがるだけなのだ。

 床で寝るにはもう寒いな、と鈴木が言った。いつもどおりこっちで一緒に寝ればいい、と部屋の主が答えた。だったら俺も入れてくださいよ、若いし体温高いですよ。おまえはデカすぎるって何度言ったらわかるんだ、そのままそっちで寝てろ。ちぇ、混ぜてくれたら今日のわさびとぽんずとゆずの写真、見せるのに。

 ふわふわの同居人が去って沈んでいた薪の周りは、大型の同居人が賑やかしてくれる。頬に当たっていた肉球やヒゲやしっぽの感触を思い出しながら、今夜はこいつらの相手をしてやるか、と薪はまた口をあけて報酬を味わった。

 

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