コロナと病気で身動き取れずにいたスキに、あんなに大騒ぎしていた香港国家安全法があっさり成立。変換後50年は一国二制度に手出ししない(※)と約束していた大陸政府ですが、その半分の時間もたたないうちに覆されてしまいました。
※ 香港返還時にこの言説を聞いた我々は、50年もあれば共産政府のほうが倒れるだろ、とわりと楽観視してたのですが……甘かった。
そもそも香港がイギリスから返還されたときに、お金持ちがだいぶ国外逃亡したんですよね。
彼らがどこに行ったかというと、バンクーバーです。同じイギリス連邦で、移住が比較的容易で移民に寛容なカナダで、国の中ではもっとも暖かい(高緯度なのに南東北より暖かい)カナダ西端、ブリティッシュ・コロンビア州の大都市です。このとき以来バンクーバー周辺は不動産バブルが激しく、東京より物価が高くなって、いまや若者がひとりで暮らせないとかそもそも住もうにも物件がないとか、カナダ人だって引退したらあったかいところに住みたいのでそういう人たちも含めて金持ちのとっしょりばかりになったとか、そのせいで州都ビクトリアは夕方6時には通りは閑散としてるとか、まあいろいろ大変みたいです。
バンクーバーより小さい街であるビクトリアは、本国イギリスよりイギリスっぽいと言われ、イギリスに行ったことのないわたしからみてもそう見える、たいへん美しいところでした。出張で5回も行ったのでもう行かないと思いますが、いまならもうおはなしのネタにしかなりません。
こちらビクトリアにある州議会議事堂と、その内部の会議場。
10年も前なのにいいデジカメだったな! いまのiPad Proでも無理だよこんなの。
過去写真を漁ってたらここに薪さんを出張させたくなってきました。
さて香港に戻って。
去年の出張後にシャトー・オー・ブリオンについて騒いだことがありましたが、7、8年前まで、まだいろいろ今とは違う余裕があった頃、毎年香港にごはんを食べに行っていました。観光とかいっさいなし、ただごはんだけ。一日4食とか平気で食べられた体力が懐かしいです。
毎回必ず行くお気に入りのレストランがいくつかあって、そのひとつがフォーシーズンズホテルの三つ星「カプリス」です。
こちらカプリスのチーズ・プラッター。普段は三つ星で行儀悪く写真撮ったりしないのですが、このときは初めてだったのと、食後だから撮っていいよ、と言われて。
全部食うわけじゃないとわかっていても、目の前に出てくると正直「ふざけんな」と思ったものです。丸太?を切ったプレートはテーブルよりでかかったです。
「カプリス」はフレンチなのに、メニューが英語と広東語で、わからないのです。英語は読めるしツレは広東語もできたし繁体字だからいろいろ見当はつきます。でもなにしろ中身がフレンチなので、ふたりしてメニューをじーっと20分くらい眺めて、「わかんないね」となるのです。
※ フランス料理が英語や漢字で書いてあるのを想像してください。わかりません。
で、日本でもフレンチのメニューはカタカナで書いてあるからいっそフランス語ならわかるんじゃないかと思って、フランス語のメニューない?とレストラン側に聞いたところ、メニューはないけどフランス人ならいる、とフランス人メートルが出てきたのです。
アジアの島に流されて大陸人客の大雑把さに辟易していたであろうでっかいフランス人が、お行儀のよい日本人客にニッコニコして寄ってきて「あんたたちフランス語できるの?」と聞いてきた日には、ふたりして力一杯「Oui! ちょっとね」と答えましたよ。フランス語で。もちろんウソです、ツレは食事用語しかわからず、わたしは自己紹介程度。
その後、フランス語で「今日のおすすめ」の説明とかされて。半分くらいしかわからなくて(でもカタカナフレンチメニューを知ってるのでそのおかげでなんとか半分わかった)メートルをがっかりさせました、ごめんなさい。
これを、フォーシーズンズに行くたびに飽きもせず繰り返しました。ふざけてたわけじゃないんです、ほんとにメニューが頭に入らなくて。すみませんフランス人。
そんな我々のせいではないと思いますけれど、現在「カプリス」のメニューはフランス語で書かれています。
こちらが「カプリス」(再掲)。薪さんがいらっしゃったら似合いすぎる。
うちの青木はフランス語とドイツ語ができる(←つまらん奴)ことになってますがフレンチとか食べつけないので、メニュー見てやっぱり「なんですかコレ」って薪さんに聞くの。
そんで薪さんはメニューの中身だけじゃなくて、こっちの料理はソースが何でできてるとか、今の季節の鳥はカモがいいとか、ここのシェフの得意なのは地鶏だとかいろいろ言ってるとその当のシェフが出てきてフランス語であいさつして、ああそうだこの人フランスにいたんだった、って青木が思い出すんです。あの頃の募る想いを。平気な顔でプロポーズの手紙書いてた若い(アホな)自分を。薪さんがたぶんすごく寂しかった時代を。
しみじみじーんとして食前酒飲みながら食べるもの決めるまでに1時間くらいかける。そんで合計で4時間くらいかけてゆっくり食事して、食べ方も飲み方もキレイなので青木がぽーっとして見とれて、僕なんか見てるな100億ドル(香港ドルなので1400億円くらい……安すぎるか)の夜景を見とけ、って笑われます。ちょっと派手すぎて下品ですけどねあそこの夜景。でも状況に満足して微笑む薪さんはそれはそれは美しいです。
大喰らいの青木がデザートからチーズまで行ってるときに薪さんはワインを白と赤両方あけて、20万くらいしますねコレ。
っていうのを書こうとして書けなかったのが、去年の青木の誕生日でした。すずたん前に妙なことを思い出してしまった。
もちろん三つ星のフレンチとかイタリアンとかだけじゃなくて、香港にはこういうところもありまして。
海鮮屋です。いけすの蟹だのホタテだのを指さして買って、奥の厨房ですごく大雑把な、でもやたらうまい料理を作ってもらって、炎天下の店先か、冷房が効きすぎて寒い屋内で食うのです。
青木はこっちのが似合うよね。
鈴木さんも楽しんでくれそうですね香港。
2060年代には、跡形もなくなってたりして。 ←希望を込めて、どっちが、とは言わない
と、かの地に思いを馳せて今日は終わります。