雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

SS「会いたい理由」

 

こんばんは。

※ ↓ 読み流してください

朝から晩まで音声ファイルの作成と仕事のメールやチャットやSNSでのやりとりと、いまさらながらのコミュニケーションツール?サイト??の学習(対応先によって使うものが違うので、Zoom、WebEx、Microsoft Teams、LINEのグループトークGoogleのやつ、Skypeのweb版、見る以外のYouTube、勤務先のサイト(←新しいアプリが入った)、バイト先のサイト(←同左)、etc. ...)ばかりしています。基本がネット世代でないおばちゃんにはかなり苦痛。

こんなのワタシの仕事じゃねえ!と思いながら。マイブーム(?)のアセトアミノフェンをかじりながら(嘘です)。

画面オンにするとフツーに猫入りますね。在宅勤務の方々って、どこもこんな感じなんですかね……みんなエライ。うちは遅れて始まったからいまさらながら、みんなすごい。

 

6月初めに別のおにいちゃんと一緒に千葉へ引っ越すことが決まった、三毛猫の小池さんとうちの黒猫のひとり。猫バイトもしてくれてたTさんがその彼氏のジョンさん(仮名)のところへ行くので、一緒に連れて行ってくれます。

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疲れてその場で眠ってしまって、目が覚めたときに青薪の妄想をしました。妄想にいたる脈絡がめちゃくちゃですけど、去年からずっと、疲れたときには「疲れてる青薪」のことを考えちゃうんです。

まだ連休のはじめ頃、しかも現在の世界線を入れてしまったので、会えない(うう、つらい)。ごめんなさいこのあいだ「やめる」って言ったのに。次、たぶん甘いのあげるんで。

 

ここに出てくる台風のときの話:

暴風域(会えない)

力学の月(会えた)

 

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会いたい理由

 

 

―こんばんは なにしてますか

―寝てた

―あ すみません

―かまわない そろそろ起きなきゃいけなかった

―仮眠とってたんですか

―ハンコ押してて嫌になったんだ

―言っても無駄だと思いますが、もうおやすみになったら

 

 何かが光ったような青白い視界の縁に気づいて顔をあげると、二度目の短い寝落ちについてこられなかったモニタに、青木から写真が届いていた。

 少し開けたままの窓の枠を抜けて初夏の匂いを感じさせる空気が忍び込み、季節を先駆けた夜が部屋を満たしている。ベッドの上に書類を広げたりするから、そのまま毛布に潜り込んでしまった。それは計算のうちで、つまり嫌いな作業に対する「やりたくない」という自分の無言の抵抗だった。

 

―社会的に身動き取れないとはいえ、曲がりなりにも連休なんですよ

 

 サイドテーブルには氷が溶けて薄まったブランデーの残り香があった。ベッドの、青木がいればいるはずの位置に雑然と散らばった紙の山と複数のパソコンは、主に人員の危急的な再配置に伴う昨夜の幹部会議の結果で、本来研究所勤めの薪のすることではない。だがそれを言ってしまったら、モニタでの遠隔会議に慣れているだろう、と技術要員並みの扱いで引きずり込まれた宇野と吉田のほうがよほど気の毒だ。緊急事態宣言が出た以上、事態は緊急で非常時なのだと割り切るしかない。

 

―管理職で昼過ぎ出て来てお茶飲んでたまにハンコ押して5時には帰っていい給料ドロボーになったしな

 

 写真を開くと、庭で何か食べられる植物を育てる舞の姿が光っている。穏やかに元気に過ごしています、という青木版の絵手紙だった。

 家で仕事をするのは好きじゃない。他に大切なものを持たなかった時代の気づきもしなかった孤独や、気づいてしまったあとの古傷みたいなかすかな痛みを思い出すし、最近はマンションにまで資料を持ち込むのは、働くためではなくて帰るためだ。年に数えるほどしかない愚かな行為ではあったが、恋人と一緒にいる時間を引き伸ばせるように、仕事でないものを優先するためだ。だが可能なかぎり出勤するな、という上司命令を警察組織の中で出す側としては、大きな猟奇的事件がなければそれができる数少ない部署である「第九」のトップという立場上、家に急ぐ理由がないからといって、紙の雑事を目的に職場まで出向くわけにはいかなかった。

 台風のときもこうだった、と自然災害に翻弄された秋を想起する。たまった年休の消化を岡部に無理矢理言い渡されて従ってみても、その休暇消費の理由となった台風のせいで、そもそも青木が来られなかった。

 

―しばらく 会えませんね

 

 今度の難局は長く続きそうだ。強風に翻弄された週末どころの話ではない。

 あちらが言ってくれたおかげで、ずいぶん贅沢になったという自覚のある弱さを白状せずに済んだ。恋しいのはもう二度と会えない人たちだから、会える存在が会える位置にいると思っただけで、耐える理由が自分の側になくなってしまう。

 出勤を止められても、青木が来られない。そのふたつをイコールで結んでしまう弱々しさを叱咤する理性もない。とはいえ、――会いたい。それはさすがに打てない。

 

―会いたいです。 あなたに

 

 犬の位置づけに違わず直情的なメッセージが硬質なガラスの中に浮かぶ。あのでかい図体で呟くようなことだろうか。ふっと胸が痛んで、この気持ちは何なんだろう、と引っかかった。

 かわいそうな奴。社会的立場も家族もあるいい歳をした男が、そんな想いでいるなんて。それを漏らしてしまうほど、募る想いでいるなんて。

 かわいそうな青木。恋する相手に会えないなんて。

 

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