こんばんは。
鈴木さんの命日、過ぎちゃいましたすみません。ブログだから日付操作して投稿します。
お盆の連休前にかかりつけの獣医さんが体調を崩して一週間休診となりましてね。でもって猫さまたちは長期休みの前に具合が悪くなると相場が決まってまして。急遽以前かかっていた病院に行ったら、そこは診療受付アプリを導入していて、本日朝の10時半で既に「予約枠終了」、つまり診療受付終わり。がーん。
そしてなんでよりによって祝日がお盆前の金曜日なん?? 休みが長くなるじゃねーかよ!(※自己都合ですすみません) そもそもなんなの山の日って、いつできたんだ。休みを増やすなら6月だろう。ちなみにカナダ人外交官ケイ(仮名)は留学生時代、日本の祝日を「多すぎる」「ほぼ一週おき(←学生の感覚)」「また祝日!?」ってびっくりしてました。
かけずりまわってなんとか治療は受けられました。ステロイド、めちゃ効いた……丸二日なにも食べてなかった猫さまが、今夜はカリカリを再開してくれました。元気になってくれてありがとう。現代医療ありがとう。
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さて出遅れましたがつまらん小話を用意してありました。
今回のネタはこちらです。
去年ふるさと納税の返礼品で相方にねだって送ってもらった、クッキー缶(とパウンドケーキ)です。
去年はわたしの中でクッキー缶が一時ブームだったので、こんなのもねだりました。
このわんこ缶とにゃんこ缶は今年もおねだりしたんですが、水族館缶は返礼品からなくなってしまっていました。カワウソのはちみつクッキー、また食べたかったな。
今日のおはなしも命日とはまったくなんの関係もない、ほのぼの鈴薪です。去年クッキーが届いた時に書いて途中から放置してたのを、今月仕上げました。
薪さんが指差したカードはこちら。
薪さんがラッコにこだわる話(青薪ですけど)はこちら:
鈴薪月間の締めくくりのにぎやかし程度にでもごらんください。
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アイドル
「鈴木。それ」
白くて四角い、小ぶりな缶と、地味なリボンのかかった、見るからにパウンドケーキなパウンドケーキ。鈴木のデスクに載せられた甘い匂いに気づいたらしい薪が、添えられたカードを指さした。
「さっき雪子が持ってきたんだ。連休に行った水族館のおみやげだって」
「一緒に行かなかったのか」
「俺はここに詰めておまえにこき使われてただろうが」
「言えばよかったのに。恋人と予定があるって」
「あ。なにその、引っかかる言い方は」
仕事に付き合ったあげくあさっての突っ掛かられ方をしたんじゃ、休日出勤手当に加えて〝よい部下でいる手当〟も加算してもらわないと、と内心呟く。「いいんだよ。なんか食い倒れツアーを兼ねてたみたいだから、スガちゃんか誰か女子と行ったんだと思う」
「開けていいか」
そう言う薪は尋ねた背景事情にはさほどの興味もないらしく、手は既に缶のほうに伸びている。
「これ、クッキー缶だぜ」
「わかってる。どうせみんなで食べてくれって持ってきたんだろう」
「おまえが食べるとは想定してないよ、たぶん」
あの人、僕には意地悪だからな、と自分こそ意地悪におもしろがった薪は、さっそく封のシールをはがそうとしている。鈴木は細い爪を痛めさせないように、缶を取り上げた。「そうじゃなくて。甘いもの、苦手だろう」
だが辛党の嫌われ者は心なしかいそいそとして見える。蓋をとって中の緩衝材を取り除き、硫酸紙をめくると、覗き込んで視線を下ろした顔がほんの少し上気して、ぱっと明るくなった。
「写真と同じだ。カワウソがいる」
「え」
確かにカードの写真と詰め合わせ方まで同じで、砂糖で色付けされた海の仲間に囲まれて真ん中にいちばん面積を占め、デフォルメされたアイドルが鎮座していた。
「ラッコじゃないぞ」
「いいんだよ。イタチ科はわりと好きなんだ」
「いつから」
「鈴木。僕のこと、血も涙もない怖いだけの仕事人間だと思ってないか」
「そんなことない。俺ほどおまえを理解してる奴はいない」
ふたりの歴史を考えればそれは当然なので、反論ですらない。「ただ、たまに出てくる動物愛がプロファイリングに合致しなくて」
「この世にラッコが嫌いな人間なんかいない。カワウソだって似たようなもんだ」
ほらみろ、その程度に雑だろ、と鈴木は口の端を上げた。親友がたまに見せる、意地っ張りで直情的な子供っぽさは、こういう無音のはしゃぎかたで姿を現すことがある。これを雪子が直接持ってきたら、ずいぶんお子さまなお菓子ですね、まああなたの彼氏はこんなものを喜ぶかもしれませんけどね、とかなんとか、スンとした塩対応で言うに違いないのに。
「このまま持ってけよ」
「いらない。食べたいわけじゃない」
「じゃあしばらくデスクに飾っといたら」
「そっちの写真だけでいいい」
「そう言うなって」
せめていくつか、とアイシングで描かれたジンベイザメやタツノオトシゴと一緒に、反故紙をひっくり返して載せてやる。
「カワウソも色塗りされてたらよかったのにな」
「それ。その、貝殻らしきやつも」
「マジか」
だからラッコじゃないっつうのに、とそれでもリクエストにはしっかり応える。「しっかしこんなマンガチックな動物にまで興味を示すとはね」
「なに言ってるんだ、似てるじゃないか」
「誰に」
「カワウソに」
つまりこれを、写実的だと思ってるわけ? 薪のどこに、そんなかわいい要素があったの。
紙皿を受け取った鬼の室長は、表情を崩しもせずにひたすら嬉しそうにしている。事務方の誰かが見たら、なんの事件の証拠品を後生大事に運んでいるのかと訝しむだろう。まあね、これは薪の、俺しか知らない内心を反射する物証だから、取り扱い注意なのはそのとおり。
「僕が持っていったなんて、雪子さんに言うなよ」
「へいへい」
「クッキーを喜んでるわけでも、土産をありがたがってるわけでもないからな」
「わかってるってば」
「おやつを配り終わったら、さっさと仕事に戻れ」
「なあ。チンアナゴはいらないの」
「なに?」
手の中の戦利品を見つめながら室長室に向かっていた足が止まった。「そんなのもいたのか」
「いた。おまえが夢中になってるそいつの陰に隠れてた」
鈴木は白とオレンジの縞々の、ステッキに目がついたような細長い一片も差し出してやった。
「たぶん僕のほうが受け取るのに相応しいだろうから、もらっといてやる」
「相応しいって」
「博士号は生命科学でとったんだぞ」
淡々と去る背中を見送り、脳波だの神経系だのをいじってたくせに水族館となんの関係があるんだ、とちょっと呆れたのを押し隠す。言い訳しないとスイーツのひとつにも手が出せないんだから、めんどくさいやつ。それに雪子はあれで薪のことをわりとよくチェックしてるから、俺がなにも報告しなければそれだけでなにがあったのか察するだろうな。仲がいいんだか悪いんだか、間に立つこちらはけっこう気を遣ってるんだけどね。
砂糖がけのない地味な姿ばかりが残った缶の中身は、日向夏のバターケーキと一緒にその後の「第九」に配られることになった。こっちはほんの数十分で消費されるに決まっているが、あのカラフルな水辺の生き物たちの寿命はどのくらいだろう。デスクのどこに置いて、いつまで眺めるつもりなのかな、と鈴木は笑いをこらえた。
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