雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

SS「甘い週末」

 

こんばんは。

先日昇格が決まったので、お祝いをしてもらいました。

この写真ではハートで隠されてる部分の漢字が、まあびっくりするほどヘタクソでね。これ、お店で客に出す? 字が書ける人、いなかったの?? ってレベル。ウケた。

ティラミスはともかく、クリームの盛りとフルーツのブッ刺し方、ひどくないですか。ウケた。本気で。

 

なおどうでもいいことですが、やっと渡せました、バレンタインのチョコレート。

 

あと今季のグッチはかっこいいのがなかったので、ジミー・チュウというところの(←ブランド全然知らない)パンプスをいただきました(←靴は好き)。

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美しい。いいなあこのフォルム! もうこれしかないってくらい完成してるラインだと思いました。飾っておきたいです(間違いなく猫さまに滅ぼされるので飾りませんが)。

ヒール8.5センチ、でも全然歩きやすい。普段9センチヒールで仕事してるので平気。自分で買う靴の30倍の値段だったんで、これ履いてなんてそうそう歩かんけど。

 

今回の第三でのデートは、終わってみると、休暇でした。帰ってきたら、「あ〜週末、すっごく久しぶりに休んだ」っていう開放感がすごかった。

いままで遠出してもこんな感覚を味わったことってなくて、スケジュール調整もめんどくさいし準備も大変だし、出かけてるあいだは岡部猫が完全にハンストするし、他の猫ずもそこそこハンストするし。お世話してくれるバイトさんを頼んでても心配が多くて。

でも今回ばかりは、行ってよかったです。調子よくなったんだな、としみじみありがたく思いました。

 

 

薪さんが女性だったらこういうプレゼントネタで書けるのに、と考えていて、男物の靴でもいいじゃん、と青木が買い物する話を考えて(以前書いたけど)、なんかテーマが定まらなかったのでやめて書き直して、というのが今回のおはなしです。

最初だいぶモチーフで苦労しました。そもそもなんで東京でわざわざホテルに泊まってんの、というのはおいといても、シンポジウム部分をまじめに書いてたら雰囲気が暗くなってきたので再度やりなおし。そこも削ったら青木が先に風呂に入ってる理由がなくなったので入れ直し。薪さんが仕事より風呂を優先するなんてありか?? とそうなる理由を入れ込んで、ってなんかつきはぎです。

青木が手話を勉強した話はこちら:「サイン」

 

最終的には、適当に甘くなれ! と雑なデザートみたいな仕上げ方をしてしまった。結局風呂に入ってるだけの話になったんですが、風呂、何回目だ?? 日照りのにぎやかしにあげておきます。

 

 

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甘い週末

 

 

 [カメラ、切ってありますか]

 横からホテルのメモ用紙に書いた質問を出されて、薪は顔をあげてうなずいた。

 [音も?]

 今度は手話だ。それにも肯定の返事を出して基調講演に戻る。

 今日が祝日なのは日本だけだったため、MRI捜査に関するシンポジウムが休暇と重なったのは致し方なかった。かといって週末の連休にふたりとも自由に動ける機会はそうそうない。捨てられない仕事と捨てがたいチャンスのどちらをどうしたものかと考えて、ハイブリッドに落ち着いた。2時間黙って聞けばいい、と滞在先での参加を決めたのだった。

 チェックインが押して、部屋に入ってすぐMacBookを開きイヤフォンをつないだ。ところがいざ始まってみれば、内容は専門的だが知らない情報はほとんどなかった。20分もすると薪は講演に飽きてきて、聞き分けよく消えた青木のようすを見に席を立った。大男は邪魔にならないようにさっさと浴室に引きこもり、iPhoneで控えめな音量の音楽をかけて、自分が沈んでじゅうぶん余裕のあるバスタブに身を横たえ、休日はこうあるべし、とばかりに気持ちよさそうに目を閉じていた。

 耳の中でフランス語の質問と、それを通訳した英語の文が聞こえた。言いたいことはわかるけれどその訳語では微妙なニュアンスが、と本質的でないところに気が散る。青木が気づいて腕をあげ、入りますか、と手話で聞いた。それから濡れた手で崩れた前髪をかきあげたので、薪はついにシンポジウムを放棄した。

 「おまえさ」

 ワイヤレスの機材は慎重に耳からはずした。シャツや下着を半ば濡らしながら脱がされて向かい合って沈むと、薪は言った。「風呂、好きなんだな」

 「あなたといるときは」

 「温泉とか、行きたがるじゃないか」

 「俺、デカイですし。からだを伸ばせる湯船がありがたいんですよ」

 「とはいえふたりで入ったら、そのデカイ風呂の醍醐味が減るだろ」

 「リラックスするだけが目的じゃありません」

 膝を曲げて顔を薪に近づけてくる。

 「いいんですか。仕事のほうは」

 「うん。得るものはなさそうだ」

 「休暇先まで機材を運んできたのに」

 だから最初から俺と遊んでればよかったでしょ、とウザ絡みさられるかと構えたが、違った。「残念でしたね」

 「うん」

 「久しぶりですね。ゆっくり会うのは」

 「そうかな」

 「この先は俺をかまってくれます?」

 「5時半に『ウルフギャング』を予約してある」

 「夕食にはちょっと早くないですか」

 「5時にシンポが終わる予定だったんで、そのあと行くのにちょうどよかった」

 「もう講演を聞かないなら、まだ2時間近くあります」

 「あのな。アメリカンなステーキハウスだからって、髪を乾かしもせずに火照った顔で行っていい場所じゃないんだぞ」

 「手加減しますから」

 大きく広げた脚のあいだに薪を抱き込んで、汗ばみ始めた髪に指を差し入れてくる。触れる唇は情欲を抑えたようにやさしく、湿度を与え合ってすぐに離れた。「先っぽだけ」

 ふざけているのはわかっているものの、バカだな、とつい笑みが漏れる。

 「おまえにそんなことができるとは思えないけど」

 「ちゃんと自制します」

 「どうだか」

 「そして夜に続きをします。帰ってきたら」

 「ふうん?」

 あんまり湯に沈んでいたらのぼせると思った。視界がもやってくらくらするし、ずいぶん甘い匂いも立ち上ってくる。ペニンシュラのソープか、バスソルトか、あるいはリネンの香りか。それとも。

 「今日はずっと一緒でしょう?」

 それとも、肌の匂いかもしれない。青木の。僕の。

 帰らなくていい、眠らなくてもいい。明日のことも気にしなくていい。ベッドメイキングも、枕をふくらませるのも、ふわふわで巨大なタオルの準備も、全部誰かがやってくれる。巣作りは嫌いではなかったが、こんな週末にはどちらの手を煩わせるのもいやだった、それでわざわざ、不埒で大袈裟な装置を逢い引きの場所に選んだ。ゆっくり会えるのは久しぶりだから、無茶な振る舞いを許してやってもいい。半端な仕事を放り出して、目の前の恋人に夢中になってもいい。

 「明日も。明後日の朝も」

 じっとおすわりして待っていた犬が、待ちきれなくなってしっぽを振っている。

 青木のじゃれつく問いかけには答えずに、薪は甘さの源をさぐってふたりの距離を縮めた。

 

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