青木、誕生日おめでとう! 薪さんをよろしくお願いします。
あの人、あぶなっかしいから。あんたもあぶなっかしいけど、だいたいふたり一緒にあぶなっかしくなることはなくて、どっちががあぶなっかしいとどっちかが落ち着いてるから、だからふたり一緒にいてください。
今年もお祝いできないかと思いましたが、いま頑張りました。
手元の書きかけを見てたら、青木が博士号をとる話があったんですが、これがびっくりするほど博士号の話しかしてない。研究の話しかしてない。なんでこんなの書いてたのかな。誰が読むんだ。と思ってまたお蔵入りにしました。
あとなんかやりすぎて(なにを)薪さんに怒られてる話とか、一緒にしまうまバーを食べてる話とか、薪さんが青木の過去の経験(なんの)を詰問する話とか、とにかく仕上がってない書きかけ、いっぱいある。けど仕上がらないのには理由があるんだな、となんか納得しちゃう。そもそもそのネタも誕生日と関係ないしな!
納得しちゃったので、諦めて新しく短いのを書きました。いつもどおり電話してるだけ、ワンライで書いてほぼそのまま。連載再開のカウントダウンで書いた話も小ネタとして入ってます。
明日起きた時に自分で「なんじゃこりゃ」と思いませんように!
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バースデープレゼント
仕事でもないのに薪のほうからかけてくるのは珍しい。ましてやあいさつがわりに「おめでとう」と言われたとなると、珍事の連続で青木はなんのことだか判断に迷った。
「あ。俺の誕生日でしたか」
「忘れてたな。なんだと思ったんだ」
「舞の入学式か、俺が博士号をとったことかと」
「いつの話をしてる」
「あなたは記念日とか、あまり興味ないでしょう」
「そうだけど。今年は愛娘が旅立って、おまえが寂しがってるんじゃないかと思ったんだ」
どうしたんだろう、この気遣いは。まるで献身的な恋人みたいじゃないか、と青木は少し不安になった。
「浮気でもしたんですか」
「……なんだと?」
「急にやさしくなるから」
「おまえの発想は、まるっきり俗人的な凡人のそれだな」
「ああああ、待って、切らないでください」
呆れた声音に慌てて反応した。「ありがとうございます」
「よし」
祝うほうの態度が大きいといういびつな構図だが、存在するだけで俗世間を否定するような情人と付き合っていたら、この程度は通常運転だ。
「寂しくなんかないですよ」
「電話もいらなかったか」
「なに言ってんですか。あなたがこの世にあって、息をしてくださっているだけで、俺は満足です」
「――ずいぶんと無欲な……」
「あ、ええとあの、正直に白状すれば、たまにはですね、」
「じゃあな」
「あっ」
続きも言わせてもらえずに通話は終了した。ふと時計を見れば、既に12時を回っている。プレゼントの時間が過ぎて魔法がとけたのだ。
白状すれば、あの瞳を見つめて、髪に触れて、指先の温かさを確かめたい。隣に座って食事をして、同じシーツの下で眠って、同じ朝に目覚めたい。こんな距離や、時間や雑事に遮られずに、手を取り合っていたい。
それでも先に口にしたことも本当だ。自分も舞も、薪も、失ってきたものが大きすぎた。愛する人がどこかで生きていて、会おうと思えば会えるという事実がどれだけ奇跡的なことかを、苦しいほどに知っている。
短い真夜中のコール1本で、世界の色が変わってしまった。電話口の声がまとった吐息だけで、「たまに」を超えるじゅうぶんな贈り物になった。
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