こんばんは。
先日、青木もといアート改めぽんずの去勢手術の報告をいただきました。
うちではあんなにシャーシャーいって固まってたのに、もうこんな甘えっ子になってるそうです。
にんげんのお子さんも幸せ……。
レーザービームのおもちゃは3にんとも夢中。
クリーム白のお母さん、やっぱり小柄ですね。
自分より大きくなった子どもたちにまだおっぱいをあげてるお母さん(再掲)。
うちで親子で保護した猫さまたちはけっこういましたが、親子でもらわれていったのは2組目です。
ちなみに猫の譲渡先としては、小学校低学年くらいのにんげんの子供がいるおうちは、かなり理想的です。なぜなら、たとえおとながいいかげんだったりうっかりしたりしていても、子供に「絶対に家の外に出さないでね」「外は危険がいっぱいだし交通事故に遭ったら死んじゃうからね」としつこくお願いすると、子供はたいていちゃんと約束を守ってくれるからです。それに健全な子供のいる親御さんは、どうぶつの虐待犯からは縁遠い存在だからです。
※ どうぶつの保護活動をやってるともれなく人間不信になります
避妊手術が終わったぽんず。
あらあらあら、そんなに油断して〜〜。もらわれていく前だったら「世の中いいにんげんばかりじゃないよ」と心配になるところですが、もらわれていったあとなら、存分に油断するがよい。
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このひとたちがもらわれていったときに鈴薪青のおはなしを書きましたが、また書きました。
もらわれていったとき:
※ 弊社ではこの世界線の青木は猫を拾います
今回鈴木さんはちょい役です。でも相変わらず仲良しです。
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めぞん鈴薪青 報告写真
「大きくなりましたよ」
猫たちの新しい家族が送ってきたという写真を、青木がタブレットで薪に見せた。
「そりゃもらわれていってもう3か月、生後半年だし」
「ぽんずは去勢手術もしたそうです」
「成長が早いんだな」
「わさびはまだからだが小さいので、年度末ですって」
避妊手術は譲渡者と引き受ける側との、大事な約束事項だ。生殖器関連の病気にかからなくなるし、精神的にも落ち着く。発情して暴れて脱走する危険性も減り、万が一外に出ても野良との交尾で致命的な病気をもらったり怪我をしたりしないですむ。なにより新しい家族を待つ猫が既に日本全国に溢れている状態で、無責任に新しい命を増やしてもらっては困る。それは青木が譲渡の際にきちんと話をして了承を得、誓約書も交わしていた。
「ゆずのハラの毛が縮れてるな。おっぱい吸われてる」
「そうみたいですね」
母親のゆずは保護してすぐ、まだトラップから出す前に速攻で手術をした。あまりこどもの面倒をみなくなることもあるが、クリーム色の毛皮はからだを投げ出して出ない乳を吸わせているらしい。
「お母さんよりぽんずのほうが大きいのに」
「俺たちに向かってシャーシャー言ってたくせに、これですよ」
見れば向こうの小学生の息子の膝の上で、仔猫ふたりはひっくり返って抱かれて眠っていた。
「よかった」
「ちょっとうらやましいですね」
「ぜんぜん」
「え」
「出ていったやつらの記憶からは、僕たちなんか完全に消え去ったほうがいいんだ」
「そりゃ覚えてろって望んでも無理でしょうけれど」
「猫の記憶力と感情が万が一人間並みで、最初に甘えた相手にまた会いたいなんていつまでも思ってたら、気の毒すぎる」
三毛と茶トラ白のきょうだいを威嚇されながら抱いて寝ていた薪には、抵抗されずにゴロゴロ言われたことなどなかったはずだ。いまとなってはそれでよかった、と青木は思った。最初に甘えられた相手にまた会いたいなんていつまでも思っていたら、気の毒すぎる。
「春になれば、次の仔猫が来ます。きっと」
「僕はもう世話をしないって言っただろ」
「でも、乳飲み児だったりした場合は数時間おきの授乳だから、薪さんにも買い物や掃除を手伝っていただかないと」
「そんなの鈴木にやらせればいい」
「家のことじゃなくてね。ホームセンターに粉ミルクやらカイロやら赤ちゃんのおしりふきやら買いに行って、すぐウンコまみれになるんでお湯を沸かして洗面器でお風呂に入れて、風邪ひかないようにすぐ乾かして、タオルを一日に何枚も何回も洗って」
「……」
「どうしても嫌なら、寄付金だけ出してください」
「嫌だとは言ってない」
「嫌じゃなくても、寄付金出してください」
「わかったよ」
青木の具体的な指示と説得に、薪も降参した。「株をひとつ売っておく」
「そこまでする必要は」
「10万や20万で足りる金額じゃないから、僕にも出せって言ったんじゃないのか」
「ええと……」
どこまで本気なんだろう、と青木が答えかねていたところへ、タイミングよく鈴木が帰ってきた。
「よ。なにやってんの」
「ちょうどよかった、助かりました」
「なになに」
「わさびとぽんずとゆずの報告をもらったんですよ。薪さんが思い出して、またさびしがっちゃって」
「さびしがってなんかいない。ちょっと懐かしくなっただけだ」
「俺にも見せて」
鈴木が間に割って入り、タブレットを受け取った。「ちぇ、なんだよ、ちゃんと甘えてるじゃんか」
「馴れるか心配しました。でも、大丈夫でしたね」
「俺たちだってめっちゃかわいがって育てたのにな。なあ?」
「――そうだな」
薪がなにかに気づいた顔をした。「ほんの1、2か月しかいなかった猫たちが、なんでこんなに懐かしいんだろうって不思議だったんだ。こいつらを保護して、育てたんだもんな、僕たち」
鈴木に肩をぶつけて再度写真を覗き込むと、薪はやっとやさしく目を細めた。
「保護したのは俺ですけどね」
「育てたのも俺と青木だけどね」
だが薪は合点がいって満足したようで、スライドをめくるために大男ふたりに押されて、ぎゅうぎゅうで平気そうにしている。
「よかったな。こいつら」
「うん。よかったよかった」
青木も同意して頷いた。ほんとによかった、これなら次にまた仔猫を拾っても、遠回しで読解の難しい小言を聞かなくてすむ。
「そろそろ夜ごはん作りますね。お祝いになにかおいしいもの」
「なんのお祝いだ」
「ぽんずがオトナの階段をのぼって、報告写真を見た薪さんがごきげんになったお祝いです」
「ハトが食べたい」
「無理です」
「鹿は」
「薪さん、肉なんかそもそもちょっぴりしか食べないくせに」
「じゃあ、エスカルゴ」
「なんですか「じゃあ」って。ハードル高いものばっかり」
「伊勢海老があったよな」
鈴木が助け舟を出した。「ふるさと納税の。あれで贅沢な味噌汁、作ってくれ」
かわいい首輪をもらったなとか、IDチップも埋めてもらえよとか、みんな相変わらず立派なしっぽだなとか。青木の献身はすでに無視されている。ひとまわりも年上の同居人ふたりが写真に向かって話しかけているあいだに、猫の親子の保護主は人間の世話をするために立ち上がった。
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