連休も終わりましたね。お休みだった方もそうでなかった方も、等しく薪不足に喘いだ日々だったのではないかとお察しします。
次に薪さんにお会いするまで、まだあと2か月もあるんですけど……あのなまじなララのせい(すみません)というか、アートが青木に見えたのも悪い(ほんとごめんなさい)。アート身長何センチよ?? ←関係ない
とにかくアートはいいんです。来月もララ買うしね。
そうじゃなくて、青薪を書きました。リレー小説のつづきのつづきです。こちらのつづきです。
付き合ってないのにいちゃつく青薪。つづきなんですけどつづきじゃないというか。今回のは、時間的にはそのあとでも、書いた気分的には別の話です。
上の完結編(?)はわたし的には多分に鈴木さんに捧げる物語、という姿勢で書いたので、ご本人出てないのに。その観点からいうと完全に蛇足ですが、違う話だと思ってもらえれば許されるかも。
それもあってタイトルもなかなか決まらなくて。なんとか「つづきだけどつづきじゃない」やつに落とし込みました。
なみたろうさんのこちらの薪さんが動機です。
「自分にプロポーズした男にこれからエビフライ揚げるのにポーカーフェイスをキープしようとするあまり睨んでしまう薪さん」です。
お、お美しい骨。 ←発言が殺人鬼っぽい
エロいなー、手! エプロン! そんななにもかもわかったオトナみたいな顔してみせてもダメっすからね。
ちなみにいま、デスクトップこうですから。
西陽の写り込みがどうしても……
なみたろうさんがわたしにくれるって言ったもん。トトロいたもん!
おはなしのほうは、勢いで書いたので内容はないような……絵ヅラを想像しながら読んでいただければそこそこ楽しめるかと思います。
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時の狭間を超えて
調理が終わって火を止めた薪の指が、2合目の「乾坤一」を煽ってカラにした。グラスを置いて背中に回した腕を、背の高い部下がそっと握って止めた。
「何してるんだ」
「まだ脱がないで」
捻った首が投げつける眼光に射抜かれる。
「おまえ飛ばしまくったくせに、こんなカッコに刺激されたとか言い出すんじゃないだろうな」
あんな異次元を共有したあとにどれほど睨まれたってもう怖くなんかないのに、と牽制するまなざしをあっさり受け止めて青木は思う。
「新婚気分で言ってるわけじゃありません」
「ふうん?」
「でもまだいいでしょ。俺にだけもう少しだけ、隙を見せてくださったって」
実際には濃い緑色の布は鎧みたいだった。自分の物言いと心のうちに矛盾があることには、もちろん気づいていた。とはいえいまならこれくらいごまかすポーカーフェイスも青木だって装える。まさかエプロンより春の薄いシャツのほうが刺激的で危険だなんて言えない。
後頭部の柔らかい髪の毛が、くるりと踵を返した勢いで跳ねて青木の唇をかすめた。小柄な上司は巨体の前で舞うように半回転し、向かい合った長身を見上げた。
きれいな人だな、とぶつかった視線を滑らせる。捲ったシャツの袖から伸びる少年さながらの腕と長い指、仕事のときにはいつもきっちり締める襟も緩んで鎖骨がわずかにのぞく。挑むように問いかける瞳はキャッツアイの輝きをもって、色素の薄い透き通った頬の赤みを反射している。
「――青木」
「まだ、いいんです」
雰囲気に許されて細い腰に手を回し、抱き上げてカウンターに座らせた。目を合わせたまま肩越しに3合目の日本酒を注いだ。「俺は「第九」に入ったばかりの新人で、あなたに沢山おしえてもらいたい事があるんです。待っててください」
「なにを」
「エビフライを食べ終えるのを」
同じグラスで大吟醸をあける。ご馳走と、美しい光景と、さくらの香りの吐息と。あの日と同じ、花見だった。
「思い出して、つらいですか」
「なぜ」
「あなたが嬉しそうだから」
「鈴木にもう一度会えるなら、何を投げ出してもいいと思ってた。それが叶ったのに、つらいわけがない」
理屈で語るほど単純ではないだろう。だがそれもまた真理だ。青木は立ち位置を動かずにぶつかりそうになりながら、次のエビをつまみあげた。
「おまえまさか、これ全部片付けるつもりなのか」
「そのために揚げてくださったんじゃないんですか」
「音を上げさせて、二度と図々しい要求なんか出せなくさせるつもりだった」
「じゃあ食べたらまた作ってくださるってわけですね」
涼しい顔で言ってのければ、薪の眼窩がすうっとすぼめられる。
「待っててください。俺がちゃんと、ふさわしく成長するまで」
厳しい表情でもやさしくされれば油断しそうになる。けれども時空の狭間で会うはずのなかった人に会って、「第九」を築き上げたふたりの姿を垣間見て、青木には心に秘めた決意があった。
鈴木さんに認められる捜査員になろう。あの人がいない事実に安堵することがどんな一瞬もないように、あの人と一緒に仕事をしたとしてもそれで自分の評価が下がることのないように、あの人が「よくやった」と承認してくれたはずの捜査員になろう。それができなければ自分で自分を認められない。薪さんの前に、隣に一緒に立てない。こうして睫毛のきらめきが見えるほどの距離にいても、これ以上近づけない。
いろいろ「飛ばした」中で重要だったのはそういう心構えだ。敬愛する室長を人生を賭けて愛した親友に挑むつもりは毛頭ない。ただ違うと示したかった、認めてほしかった。だからいまは、まだいい。
「うん。うん。うん」
薪が真面目な顔つきで頷いた。合わさりそうなほどに近づいた胸の鼓動が聞こえたと思った。さらさらと髪が揺れて空気が流れた。つまり食べないと次はないんだな、と青木は与えられた挑戦権をありがたく受け入れた。
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