雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

「鉱脈」

こんばんは。

今日は猫ずの暴れっぷりがいつもに増してすさまじく、崩壊した家の中を片付けていたら朝になりそうです。

 

昨日のワクチン接種後、元気のない山本さん(猫、キジ白)と小池さん(猫、三毛)。

今日はもう復活しました。f:id:orie2027:20190928014137j:plain

 

 

さてさて、先日(20190915)のなみたろうさんとこのお美しい薪さんが、どうしても対岡部さんではなく対青木にしか見えなくて、妄想しました勝手にすみません。

当社比長めですが、解説の必要なネタがいろいろ入ってるのでこちらに載せます。

 

許可いただいたのでリンクを ↓

ameblo.jp

あ、ニベアも関連してるんでした……

 

9月の連休に逢い引き中の青薪です。管理人は連休は2回とも休みじゃありませんでしたが、妄想はしっかりやってました。

カップはメラミンじゃなくなりました。

・てゆーかもはや最初のイラストとまったく違う方向に展開してしまいました。勝手に書いたあげくにこのていたらくですごめんなさい。

・寝間着はしつこく半分です(定番化)。

・少し前にご紹介した「こうぶつヲカシ」も混ぜました。

・味は知りませんが甘いと薪さんが食べてくれないので抑えました。

・薪さんが発情気味です。あんなお美しい薪さんをバカップルの片割れにしてしまいましたごめんなさい。

以上、長い言い訳です。

 

そしてそして、なみたろうさん お誕生日&ブログ7周年おめでとうございます。とりとめのない品で申し訳ないですが、こちらのおはなしをお祝いに捧げさせていただきます。いらんとかおっしゃらないでください返品不可です(←この同人誌的ノリがちょっと懐かしくてつい書いてしまったたわごとです無視してください)。

薪さんをあいしてまだ9か月のわたしがおこがましい、と我ながら思うものの、最初に発見してお邪魔したブロガーさん&ピクシブ絵師さんのおひとりが、なみたろうさんでした。いつも埋めきれない心の隙間を美しい色鉛筆画で勝手に埋めさせていただいてます、ありがとうございます。お仕事、お身体、大変そうですが、500色ぶん描き続けてください!

 

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鉱脈

 

 低いけれど耳障りな電子音が、ベッドルームの重静かな空気の底で控えめに響く。通常は時計のアラームは薪にとってバックアップでしかない。だが今日はその規則的な音鳴りを久方ぶりに聞いて、自分を押さえ込むように載った腕の重量にやっと意識が目覚めた。

 ぴ、というサウンドはともかく、どけようとする動作にもこいつが起きないのはいったいどういうことだろう、と抜け出すのに四苦八苦していると、青木が自分を引き止める力が強くなり、やっと気がついた。

 「おい」

 「……おはようございます」

 「おまえ、重い」

 「あなたはあったかいです」

 「やめろ。起きるぞ」

 「あなたにやめろって言われて俺がやめたことがありますか」

 「何言ってんだ、朝っぱらからいい加減にしろ」

 「どこ行くんです」

 「シャワー浴びてくる」

 「行かないでください。まだ7時ですよ」

 「甘えるな」

 大柄な恋人を足で押しのけて、ふたりの寝床からやっとの思いで脱出する。世間は連休だったが、薪は初日も最終日の今日も仕事があった。午前中2時間だけ官邸に顔を出さなければならない。

 昨日青木が来てから、延々と不品行なことをしていた。夕方にはもうシャンパンを2本も空けていた。たいして酔ってはいなかったが、それはその時点でのことだ。そのあとドイツの白ワインも出したし、なんだか変なところにこぼしてなめあった気もする。

 青木が福岡から鉱物の形をしたきれいなみやげを持ってきたのが発端だった。琥珀糖みたいなやつです、ひとくちで食べられるしあんまり甘くないですよ、というので手のひらに少し余る大きさの箱を開けると、標本みたいな和菓子が並んでいた。右下の枠に目立つ黄色い結晶を取り上げた。

 「シトリンですかね」

 「見た目より柔らかい」

 「そりゃお菓子ですから」

 口に含むと清らかなレモンの香りがした。

 「どうですか」

 「悪くない」

 「お気に召すと思いました」

 青木がその隣の濃い赤いかけらを取った。

 「ルビーだな」

 「ラズベリーです」

 「僕への貢物じゃないのか」

 お返ししますとばかりに、青木の舌に載ったわずかな甘さが薪の口腔内に入ってくる。フルーツの香りがふたりの中で均衡した。

 テーブルの上のヴーヴ・クリコに手を伸ばした。ボトルを倒しそうになり、青木が薪のおぼつかない指を掴んで引き止め、代わりにグラスの細い足を持ち上げた。クリスタルの薄い縁が薪に触れる。対面した男の黒い瞳をじっと見つめ、唇をわずかに開けてシャンパンの泡で濡らす。口角から漏れた雫が舐め取られて、またそのまま深く長くキスを交わした。

 そうやって甘いものとアルコールを、時間をたっぷりかけて代わる代わる摂取した。

 「ピンクトルマリンはピーチ」

 「あなたの爪の色です」

 「ペリドットラ・フランス

 「あなたの吐息の香りです」

 「タンザナイトは」

 「ミント。あなたの深夜の肌です。水晶は」

 「シャンパーニュ。いまの僕たちの」

 「あちこちですね」

 そしてソファの上で散々悪さをして、あんな学生みたいな戯れは久しぶりだった、というより学生のときだってやったことがなかった。

 熱めのシャワーを頭からかぶる。少しべたつく部分にはまだブリュットの泡の痕跡が残っていた。節々が痛んで体も重かったが寝覚めはよかった。とにかく人の恋路の、じゃなくて連休の途中にセンスの悪い仕事を入れてくる政治家相手には、営業用スマイルを持ち出して手早く丸め込んで終わらせて、遠方からやってきたこi ……客人の待つこの寝ぐらにさっさと帰ってこよう。

 語彙から始めて思考を、さらに水場を抜け出し顔と体を、仕事に切り替えていく。半端に身支度を整えた状態でネクタイを肩にかけ、朝の覚醒のためのコーヒーを淹れる。でかい図体で機嫌のいい子猫みたいにからむ青木がこの香りに誘われて起き出して、後ろ髪を引く甘いことを囁きながら、薪が大好きなあのキスをくれるだろう。いってらっしゃいお待ちしてます、早く帰ってきてくださいね洗濯して待ってますから、っておまえは巣作りにいそしむ不死鳥か。

 「ご機嫌ですね」

 予想にたがわずやってきた青木の腕が、後ろから薪を抱きしめた。骨ばった右手が着たばかりのシャツのボタンをはずし、左手がその中に入ってくる。さすがに大学生の続きはやってられない、と背後の巨体を押しのけようとすると、なんで平日の格好をしてるんですか、と頭の上から疑問が降ってきた。

 「教えただろ。永田町に顔出してくる」

 「今日ですか」

 「このあいだそう言ったじゃないか」

 「来週ですよ」

 「何寝ぼけてんだ、連休の三日目の月曜日だぞ」

 「来週も連休です」

 言われて薪が固まる。

 「ほんとに?」

 「今日は敬老の日。来週は秋分の日です」

 「2週続けて、連休?」

 「珍しいですね。あなたが見当識を失うなんて」

 「……カリウムとナトリウムのバランスが」

 「なんですか?」

 「おまえが無茶ばっかりするからだ」

 「だからもっと水分摂ってくださいって言ってるのに」

 「ワインじゃだめだったか」

 「あなた本当に強いんですね。俺はほんの少し二日酔いです」

 呆れ気味に青木に言われても、日付を間違えたのでは自慢にならない。

 「昨日は糖も取りすぎた」

 「それでハイになるなんて、まるきり子供じゃないですか」

 「子供は酔ったりしない」

 「俺に爪痕を残したりもしませんよ」

 「……あんなキスも……」

 「こんなところにキスも」

 青木の唇が熱をもって薪の首のうしろに降りる。「この香りは惜しいですけれど、コーヒーはちょっと置いて。俺たちの公邸に戻りませんか」

 「別邸のほうがいい」

 「……お風呂ですか」

 「宿酔いも醒めるぞ」

 馬鹿馬鹿しい勘違いをした動揺が、離れずに一緒にいられると思っただけで季節外れの初雪のひとひらのように溶け去り、もう一日が楽しくて仕方がなくなった。振り返って向かい合う。まだ早いと引き止めた青木は本当はもう少し眠っていたかったのかもしれないが、薪はいったんモードが変わって意識も切り替わってしまったし、昨日の続きでまだ過剰な熱が残っていた。

 「それに腹が減った」

 「何食べたいですか」

 「エビとアボカドのサラダ」

 「トマトとレタスと卵、ブロッコリにひよこ豆もほしいですね」

 「スコーン。甘くないやつ」

 「……次に来るまでに練習しておきます」

 「それかイギリスのビスケット。サワークリームつけて」

 「薪さん」

 青木が少し驚いた声を出した。「ほんとにおなかすいてるんですね」

 「うん」

 「外に出ましょうか」

 「うん。オレンジのコンフィチュールも」

 「何から始めますか。ごはんにしますか、お風呂にしますか。それとも」

 「おまえは前世紀の新妻か」

 「似たようなもんです」

 「いちばん準備が整ってるのは、おまえだな」

 「「俺」なんて選択肢にありましたっけ」

 パジャマの下だけを穿いた青木の腰の素肌に両腕を回す。背中の硬いバネのような筋肉が、ゆうべ自分に何をしたかを触れて思い出す。そんな生意気なことを言うなら、というセリフが終わらないうちに、軽く抱き上げられて言葉を奪われた。してほしいことを青木にさせるのなんか、薪には超絶たやすかった。

 「薪さん。あの」

 「まだなにかあるのか」

 「ゆうべのヲカシの残り、いただいてもいいですか」

 「……あ?」

 「俺を補給不要の超人だとでも思ってらっしゃるんじゃ」

 「違ったのか」

 「薪さん……」

 「悪い、からかったんだ。食べに行こう。シャワー浴びてこい」

 「いいんですか」

 「いいんですか、ってなんだ。おまえこそ僕を発情期の猫かなんかだと思ってるだろ」

 今朝は思ってました、という呟きをやり過ごして腕をほどき、浴室に送り出す。コーヒーもまだ熱いし、エネルギー過多の感情を鎮める時間も必要だった。

 バスルームから水の流れる音が聞こえてきた。カウンターにはゆうべの鉱物の小箱があった。蓋を開けるとトパーズの結晶が残っている。口に含んで広がったカラメルの味わいが、青木の囁きを耳の奥に蘇らせる。

 ――あなたのからだの表面に滲み出る涙や汗、その幹を流れる黄金色のいのちも、すべてがこんなに輝いて、あなたはこんなにきれいです。すべてが俺には鉱脈で、俺はそれを探り出そうといつも必死にさせられる。あなたのせいです。全部あなたの。

 あれは何の言い訳だったんだろう、と邪推する。僕を寝かせなかったことへの謝罪のつもりだったのか、告白の一種だったのか。ダイヤモンドの鉱脈をからだの内に秘めているのは、おまえのほうなのに。それを独り占めしたい欲望と嘆かわしく闘っているのは、僕のほうなのに。

 水の流れる音が止まった。青木が戻ってきたら、からの菓子箱を見てがっかりするだろうか、僕の劣情を浅ましく思うだろうか。それとも、そこまで飢えさせてたなんてすみません、と謝るだろうか。なんでもいい、今はとにかくミネラルのバランスを整えないと、あるまじき程度までIQが下がってしまいそうだ。

 薪は大地の色の飲み物をすすり、まもなく戻ってくる鉱夫のために、昨日の働きへのご褒美として、2杯目を淹れ始めた。

 

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