雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

秘密の「原罪」

 

今年の元旦のNHKラジオ講座まいにちロシア語入門編」は、青薪で始まりました。

こんなスキットだった。

A:わたしの手紙を受け取りましたか。

B:はい、受け取りました。でもまだちゃんと読む時間がなくて。ごめんなさい。

A:大丈夫ですよ。読み終わったとき、知らせて下さい。いいですか。

B:わかりました。メールしますね。それで、その先何をするかを決めましょう。

会話できてるのにその場で話さないとは、混み入った内容なんですね。「家族になりたい」とかの。

 

ロシア語の昨年のスキットには、

「これは兄の家族です」

「奥さんはなにじん?」

「奥さんの母親はウクライナ人、父親はカザフ人です」

という会話がありました。

ああ〜そーだよね、「カザフ人」って国籍じゃなくて民族なんだよなぁ。

と、あたりまえのことを再確認してしまった。

日本みたいな国に住んでると「◯◯人」って国籍のことだと思ってしまうけど、世界は多民族国家のほうが多いから通常それは民族を表します。っていうか「◯◯人」っていう考え方そのものが違うのかもしれない。国籍を聞く時は「国籍は?」っていう聞き方がありますし。

 

以前カナダ人に「カナダっていわば新興国多民族国家だと思うんだけど、カナダ人っていうのは誰のことを指すの」と聞いてみたことがありました。曰く、「人によるけど俺は、カナダで生まれたらカナダ人だと認識してる」という返答でした。

これは当時のわたしには納得のいかない返答でしたが、今ならわかる。カナダでは「カナダ人」という言葉の意味が、なんというか、広いのです。以前も書いたかもしれませんが、カナダ人に「あんたはなにじん?」と聞くと、「カナダ人で台湾人」とか「ハンガリー人でカナダ人」とかいう答えが帰ってきます。

「カナダ人」はいわゆる国籍、もうひとつの「◯◯人」っていうのはいわゆる民族、ルーツであって、どちらも合わせてアイデンティティであって自己認識なんですね。

 

 

で、このスキットを聞いたあと、カザフと聞けば薪さんを思い出す秘密脳、常々気になっていた「セミパラチンスク(市)」を検索したんです。

いやもう、ひどいもんです。世界の核実験の4/1がセミパラチンスクで行われたそうで、それも人間を実験対象として。

アルマの墓がある「カイナール(村)」で検索しても同じです。いくつかリンクあげておきます。世界の事実を知ることは重要だとしても、悲惨すぎるので、見ることをおすすめはできません。

natgeo.nikkeibp.co.jp

kyoto-muse.jp

 

雑な括り方をすると、我々日本人って、核の悲惨な写真をそこそこ見てきてるじゃないですか。だもんで、なんとなく見覚えがあるんですよ、個々の悲惨な写真ではなく、その悲惨な光景そのものに。

それをネットの誰もがアクセスできるページで改めて突きつけられた感があります。

これを知って「原罪」を振り返ると、もともとしんどかったあの話、さらにしんどい。清水先生、よく描いたなこれ、と思わされます。作品に社会を映す作家の鋭く残酷な眼差し、というやつを思い知らされる。

 

 

さて話が「原罪」に流れたことで、いつもよくわからなくなるのでまとめます。

・タジクとサラは同郷でカザフのカイナール村(セミパラチンスク市の核実験場の近郊の村)出身

 タジクが工場から猫缶を盗んで妹アルマに与えていた頃、サラが身代わりとして暴行を受け聴覚障害になる

・アリエル・カザフ大統領とポトノフ・露外相、ロシアの放射性廃棄物最終処分場をカザフの旧セミパラチンスクに設置決定

 外相の「(セミパラチンスクのガン発生率が高いのは)カザフの怠け者の集団詐欺」という言葉と、娘リリヤを亡くしていたことで怒りのサラ、外相の殺害を決意

 →カザフへの原発技術協力を手がける川谷議員のもとに秘書として入り込む

・サラ、川谷の息子寿明と付き合う?(たぶん無理矢理)

 タジクを紹介し、ふたりは川谷にとって重要な地位につく

 →シンポに参加、ポトノフ殺害を計画

・シンポではMRI捜査の連携強化も議題となり、アリエル大統領がアスタナの姉妹都市福岡で最新のシステムを見学

 →青木は視察に同行(?もともといるのに)後、そのまま第三での食事会へ

・タジクは川谷寿明および周囲の女たちに食事を提供することでCJDを発症させる

 

この最後の部分がずっとよくわからなくてですね。

最初にCJDが出てきたからそこがテーマとして大きく取り上げられるけど、振り返ってみると事件全体は実は沙羅の復讐物語で、タジクはそれを手助けしてたわけです。ポトノフに近づくための道具でしかなかった川谷寿明に、強姦した子供の死体の始末までさせられて、こいつは殺していいと思ったんでしょうけれど、タジクならどうとでもできたでしょうに、なぜ周囲の女たちまで巻き込んで長時間かけて殺さなければならなかったのか(※周囲の女性たちがおかしくなってきたことで直接手を下したのは川谷寿明、ただしCJDは治癒しないので川谷が何もしなければタジクの料理が原因で全員死んだはず)。

周囲の女たちも同罪だと思ってたから、なんだろうけど(←いちいち疑問を述べて自分で解決する奴)、そこは彼女たちへの評価が「性的サービスを強要されていた」「誰かのために日本で体をはって働き続けた」となる薪さんとは違うところなんだよね。

 

いずれにせよ、どっから手に入れたんだ、CJDに罹患した最初の脳。川谷の息子が日本で人間で2例目、って薪さんが言ってたから、たぶん牛、それも国外から入手したんでしょうね。

牛のプリオン病が人間にうつる、と大騒ぎになった当時のことをちょっと記憶しています。たしかナショジオで読んだ。わたしの読解力・理解力・記憶がある程度正しければ、あれは、

・細菌でもウイルスでもない、ただのたんぱく質が病原となった

・種の壁を越えた

・治らない上に必ず死ぬ

ことが大きな話題となった原因でした。

 

 

今回、手紙に関する会話がロシア語講座で出てきたことで、改めて「原罪」を振り返ってみました。しかし何度読んでもしんどい話だ。っていうかしんどくない話、『秘密』にほとんどないですけどね。だからこそ「暴走編」みたいなのが貴重なんですね。