雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

SS「語学の授業」

 

こんばんは。

今日は3週間も手直しし続けてやっとまとまったおはなしです。ツブさんのこちらのイラストからです。

 

こちらもついったにあげたものの再録です。

なかなかまとまらなかっただけあっていろいろ裏話がありますので、せっかくだから載せておきますね。

 

 

最初は違う話でした。流れは一緒だけど語学の授業じゃなかった。

 

 「鈴木。今度のクラス飲み会だけどさ」

 2限の政治学の待ち時間、背後から声をかけられた。教養学部の科目は必修が多く1年生は多くが同じ授業をとっているが、将来の専門をすでに見据えた者がとる科目や、語学はけっこうバラける。それでもほとんどずっと、授業があろうがなかろうがほとんどずっと一緒にいる総代と次点のペアは、その学内に知れ渡った頭脳の程度によってだけでなく、でこぼこ具合や他を寄せ付けない色の違う雰囲気で、いつも異色でそこだけ空気が違っていた。

 ゆえに見つかりやすい。

 「二次会も行く? カラオケに予約とるから」

 「ああ、んー、どうしようかな」

 「鈴木は行かないよ」

 振り返りもせずに薪が背中で答えた。「その日はインスタで電波天文衛星「はるか3」の、大気圏突入中継があるんだ。飲み会も20時で切り上げて、鈴木は僕と一緒にそれを見る」

 

インスタ、自分が使ってもいないのに出しちゃったよ。

これをこのあとどうするつもりだったのかな(わかりません、展開できなかったので語学にしました)。

 

 

東大の第二外国語は、おおむね履修者の多い順に、スペイン語、中国語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ロシア語、朝鮮韓国語、の7つだそうです。このうち中国語、フランス語、ドイツ語に既習クラスがあるのはほんとです。第二外国語ってことは、英語は必修なんでしょうか。選ばなくてもいいのかな。

わたしが卒業した大学では英語は必修じゃなくて、外国語を2個取らないといけなかったので、普通の人は英語ともう一個なにかとって、そのもう一個のなにかを第二外国語と呼んでいたようです。わたしは英語はもういいやと思ったので、中国語とロシア語をとりました(でも英語以外の語学はあまりうまくいきませんでした、ほぼ忘れました)。

 

余談ですが、わたしの語学コンプレックスというのはおもに英語以外の場所にありまして、定期的にフランス語やロシア語を復習したい気分が蘇ります。教材は常にNHKラジオ講座。英語の学習でお世話になって、役に立ったから。

ラ講のシラバスって、すばらしんですよ。あまりやったことない外国語をやるとよくわかるんですが、既習項目が忘れた頃に思い出せるようにうまいこと散りばめられていて、ほんとすごい。会話文の話題もわりとおもしろい。いま英語の超苦手な部下が「中学生の基礎英語レベル1」からいくつか並行してやってるそうですが、カッパが主人公で太平洋を泳いでアメリカに来たとか、もりあがってます。

なおラ講のロシア語には入門編とそうでないのがありますが、ロシア語の入門編は他の言語に比べて格段に簡単です。最初のほう、キリル文字を数個ずつだもん。それも1週間に。忘れてたわたしでさえ入門編は飛ばせた。まあロシア語は確かに見慣れない文字、大文字小文字とおまけにブロック体と筆記体がかなり違うから。でも発音は、母音が日本語に似てるのでラクです。すごく大雑把に言うと、「ア・イ・ウ・エ・オ・ヤ・yi・ユ・ye・ヨ」の10個です。

 

 

東大に戻りますと、外国語は、上記の必修の7か国語の他に、選択科目として、アラビア語インドネシア語、広東語、上海語セルビアクロアチア語タイ語台湾語トルコ語ヒンディー語ベトナム語ポーランド語、ポルトガル語モンゴル語ペルシャ語ヘブライ語が学べるそうです。

ここからペルシャ語を持ってきました。ペルシャ語、軽率にできることにしてたもので。

→ SS「秘密の上に費やさむ」

 

で、語学の授業の免除なんてことが果たしてあるのかというと。

連れ合いは大学に4個も通ったんですが、2個目の大学のとき、必修でドイツ語があったそうなんですね。が、1個目の大学でがっつりドイツ語はやってたので、バイトの時間も欲しいし(※絵に描いたような苦学生でした)、ドイツ語はもうできますのでなんとか、と教授に頼みに行ったら、その先生が、一個目の大学から来てた非常勤の先生だったと。顔を見てすぐに「あ、きみね。きみはいいよ、ドイツ語受けなくて。単位あげる」と言われたそうです。

東大みたいなところも、そういう融通は絶対効くはずだ、と想像しました。

 

なお鈴薪はこの免除された第二外国語の時間、法学部(=上級生)のクラスに潜り込んで別の勉強をしている。というところまでが、弊社の勉強しかしてない鈴薪です。2限のあとは昼休みがあるので、そのあいだに駒場から本郷まで移動します。

 

 

折りたたみのあと、あちこち少しだけ直してあります。誤字チェックレベルで。

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語学の授業

 

 2限の政治学の終了後、鈴木と薪のふたりが席を立たずに権力の正当性の三つの理念について議論を続けていると、後ろから別の学生に声をかけられた。

 「鈴木。次の第二外国語、先週もいなかったらしいけど。行かないの」

 「ああ、7月になったら出る」

 振り返りもせずに薪との議論に戻ったが、背後の気配が立ち去らないので振り向いた。

 「なに」

 「とってるの、なに語」

 「ロシア語」

 「なんで出ないの。必修なのに」

 「ちょっとだけやったことがあるんだよ。ロシア語は既習クラスがないから、先生に掛け合って小テストを受けて、前半は出なくていいって許可もらったんだ」

 同級生は、そんなことあるのか、と驚いた顔をしている。

 東大の学生は親の仕事の都合や教育方針で高校生までに海外研修などを経験した者も多いため、ドイツ語とフランス語と中国語には既習者用の上級クラスがあった。鈴木はその3つとスペイン語ラジオ講座で履修済みで、イタリアでしか話されていないイタリア語にはあまり興味がなかったので、他より経験値の低いロシア語を選択したのだ。

 「薪は、どうなの」

 いまだにどちらかというと謎の生命体扱いを受けている傾向のある薪が、続けて質問された。

 「どうって、なにが」

 「第二外国語。なにとってるの」

 ニヤニヤ笑いをしている鈴木の横で、薪はそれを少々うざったげに睨み上げながら、それでも正直に答えた。

 「とってない」

 「え」

 「第二外国語でできない科目はないから、7か国語の試験を受けて、さらにそれ以外の選択の語学科目をとることを条件に、免除してもらったんだ」

 「選択は何にしたの」

 「ペルシャ語

 「なんで」

 「アフロ・アジア語族はまだアラビア語しか学んだことがないから」

 「「まだ」? 「しか」??」

 「ここでナイル・サハラ語族が学べるならそっちにしたかったって言ったら、外語大に行けって叱られたよ」

 びっくりまなこで言葉少なに薪の返答を聞いていた学生は、ナイルの言語をどこで使う気だ、と呟いて教室を出ていった。

 「笑うな」

 ついにハハハと声を上げ始めた鈴木を制して、薪が言った。

 「だって。あいつらあれでも、おまえが天才なの、知ってるつもりなんだぜ」

 「脅かそうとは思ってなかった」

 「びっくりするよなあ。たぶん、なんでこんなのが東大にいるんだ、って不思議がってるよ」

 「どこならいいんだ」

 「さあ。アテネの学堂とか。火星とか」

 「僕は学校では普通の人間のふりをしたほうがいいかと考えてたんだが」

 「なんで」

 「おまえがずっと一緒にいるから」

 薪はまじめな顔で答えた。「困るだろう。友人が地球外生命体みたいに扱われてると」

 「別に。っていうか、外見だけでも相当人外だよ、おまえは」

 鈴木も真剣に応答した。

 

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