雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

秘密の家族

 

今日は「親」というものにまつわるいくつかのエピソードについて語ります。

 

少し前にみかけたよそさまのツイートでこんなのがありました。

一般人なので万が一にも巻き込まないようにスクショで。

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夫婦別姓もそうだけど、母親がいない人とか外国人籍の子供とか、父親が姓を変えている場合とか、「母親の旧姓」という固定観念が常識でない人がいることが可視化されてきて、それが固定観念であることが目立ってきた感じがします。

 

なんでアイスランド、って思って調べたら、

父の名前に息子あるいは娘を表す語尾をつけたもの(父称)を姓として用いるのが伝統であったとされるが、親の姓を用いる(別姓)ことや夫婦で同姓になることもできるよう制度改正が行われている。

なんだそうで。

みな父親の姓を変形させて名乗るということですね。母親の「旧」姓がない、っていう点ではもともと夫婦別姓の国と変わらないんじゃないかな。

 

この「父の名前に息子あるいは娘を表す語尾をつけたもの(父姓、父称)」というのはロシア語にもあります。スラブ文化圏にあるのかもしれない(アイスランドがスラブ文化圏かどうか知らずに適当に言ってますすみません)。

以前ロシアに行ってた知人が当地で病院にかかり、申込書に「父称」を書かないといけなかったそうなんですね。その知人は「自分は外国人だからそんなものはない」と言ったそうなんですが、「いいから書け」と強要されたらしい。

ロシア語の父称は苗字である「父姓」とは別です。父親の下の名前に、男性は「ビッチ」、女性は「ブナ」を追加することでできあがります。

 

つまり薪さんなら、シベリアで病院にかかったりすると、

「つよし・タカシビッチ・まき」

と書くわけです。

青木は、鈴木は、と書こうとして、両親の名前が出てきてるのは薪さんだけであることに気がついた。

舞だと

「まい・イッコウブナ・あおき」

ですが、青木本人は舞の実のお父さんの名前を使わせそうですね。

 

この話(=薪さんの話ではなく父称の話)を他の人にしたところ、もう10年以上前なんですけど、ある若者が、

「え、わたし、お父さんの名前、知りません」

って言ったんですね。

当時のわたしには浅はかにも想定外の返しだったので、一瞬固まってしまって。つい

「なんで知らないの」

と聞いたところ、

「いやあなんでと言われても、知らないんで」

と言われてしまいました。

 

それからさらに数年後、この「父称」の話と「お父さんの名前を知らない」人の話をまたよそでしたところ、また別の人に、

「あ〜、わたしはお母さんの名前、知りません」

と言われまして。お父さんよりさらに衝撃だった。

自分の「常識」の範囲と無意識の固定観念を反省したできごとでした。

 

 

加えて別件なんですが、職場にいたカナダ人ローズ(仮名)(既に帰国)と家族の話をしていて家族構成を尋ねたら、彼女は養子だったんですね。まあ北米だし珍しくないんだろうと思って続けて聞いていたところ、彼女の家庭はちょっとというかかなり複雑でした。

以下、本人が使った日本語を交えてご紹介します。

・ローズ(仮名)の産みの母親Aには子供がたくさんいて、二度ほど離婚しているので父親の違うきょうだいが何人かいる

・母親Aは親友Bに子供がいなかったからローズ(仮名)を「あげた」

・ローズ(仮名)が養子にいった先の母親Bはよそからも養子をもらっていて、血のつながりのないきょうだいがたくさんいた

・母親AとBは仲良しでよく一緒に遊んだりしたので、ローズ(仮名)はAのことも知ってるし普通に会ってる

・いまローズ(仮名)はカナダで親元を離れて、Bのもとに来た養子の、血のつながりのないきょうだいCと一緒に暮らしている

・Cの彼氏Dがろくでなしで、子供ができて生まれたんだけどちゃんと面倒をみずにソファから落として死なせてしまったため、裁判になっている、AもBもCもローズ(仮名)もめちゃくちゃDに腹を立てているので訴えることにした

あまりに家族構成が複雑なのでつい、それはカナダでもかなり珍しいんじゃないか、と聞いてしまいましたが、まあ珍しいそうです。けど彼女にとってはそれが生まれ育ってきたほんものの家族だから、構成を説明するときに特に気負いとかはなかったな。

 

以前書いたローズ(仮名)の性自認及び性的志向の混乱は、彼女、というのはしばらく「男性として扱ってほしい」と言われて名前も変えて三人称も he でしたが女性に戻ったようなので「彼女」と呼ぶのですが(でもまあニュートラルな呼称が欲しいところ、世間の認知が広がれば「彼」を性別関係なく使うのでもいいけど)、つまり本人がなんとも思ってなさそうでも実際にはそういう生い立ちに多少なりとも影響されているのではないか、と思ったりもしますが、証明できないし最終的に本人のアイデンティティが落ち着いてその後幸せな人生を送っていればそれでいいので、でもってそうなってきているので、終わりよければ、という感じです。本人がこっちにいて近くにいてわたしの担当下にいた頃は、ほぼわたしがカウンセリングしてたのでわたしもそこそこ混乱しましたけど、認識が広がっていい経験でした。

 

 

ローズ(仮名)の家族構成は、傾向としては青木んちの家族構成に似てますね。

仲のよかった姉の子供を引き取り、よそからまったく血のつながりのない光を受け入れた青木。母親にさえ「わかってない」って言われてたけど、働きながら普通に家事こなすし独身でなんの迷いもなく舞を引き取ったし、青木は脱日本人的な、大陸的な(よくいえばおおらかで細かいことを気にせず、悪くいえば大雑把な)姿勢を持ってるんだな。

 

薪さんは自分の出生の秘密を、悩み抜いた末の多感な時代に、わけわかんない組織と、のちに人生を懸けあった親友となる男を通じて、殺人未遂事件を経由して知ったわけで、その知ったこと自体が衝撃だったといえます。

が、さまざまな構成の現実の家族を見てしまえば、ほんとの意味で衝撃なのは

・黙して語らない「異形の」育ての親

・そいつが薪の両親を「殺害」した

・母親は強姦されて自分を妊娠した

ことなどの「事件」であって、

・父親と血のつながりがなかった

・育ての親だと思ってた人が実の親だった

・母親は望まない形で自分を授かった

・それでも薪の両親は自分を溺愛した

あたりは、事例のないことではないし、とりたてて騒ぐべきことでもない、とも言えます。

とはいえ日本みたいな国であと5年で、こういう非一般的なことが「珍しくない」ことになるとは思えませんが。

 

 

最終シーズンを迎えた『Hawaii five-o』で、元検視官のマックスが「国境なき医師団」の派遣から数年ぶりに帰ってきたのですが、そのとき「僕の息子」といって7、8歳くらいの子供を連れてきたんですね。人種も違うし年齢歴にも当然、養子です。奥さんや母親の存在は不明。

が、元同僚たちはそれを、「おー、子供ができたのか」「家族ができたのか」「よろしく〜!」とかっつって、「猫拾った」以上の通常運転のノリで迎えるんですよ。ドラマなのは重々承知でも、そんなエピソードを語らせる社会的な下地がすげーな、とびっくり感動しました。

 

舞がフツーに「お父さんじゃない」って、あのときは怒ってたけどでもそれを割り引いたときに青木が「父親」でないことに特にこだわりなく語ったのが、個人的にはたいへん好ましかったです。

 

 

最後に写真は、ちょっと似ててかなり仲良しだけど血筋的に関係のない、山本さん(右)ともう小さくない赤ちゃん(「赤ちゃん」という名前ですが1歳過ぎてます)。

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このときはたしかにんげんの客が来ていて、びびって隠れてたんだった。

ふたりともしっぽがすのこから落ちてます。