あおまき(猫)とおかあさんに、ワクチンを打って来ました。
こちら、外出でビビってるマキちゃんとアート。体重はそれぞれ1.4kg前後と、立派に成長中です!
さて今日もお題ガチャで一個書きました。
わけわかんない外国語、得意分野ですね薪さんの。
電話で話してばっかりの青薪というか相変わらずのわたしの脳内ですが、まあいいでしょう。
以前「月がきれいですね」を言い合ったおはなしはこちら:
* * * * *
「薪さん。今夜も月がきれいですよ」
「そうだな」
「欠けるところのない望月で」
「こっちでも見えてる」
「めちゃくちゃ明るくて」
「東京ですら光り輝いてる」
「きれいです。すごく」
「……」
薪が沈黙した雰囲気で、しつこすぎたかな、と青木も黙り込んだ。
わかってとぼけているはずだけれど、本気で嫌ならはっきり言ってくれたら、俺だっておとなしくひっこむのに。
「あの、」
「** ; ~~ la:@dp@」
「は」
な、なに語だろ、いまの。
「القمر جميل」
「……」
「Månen är vacker」
「……」
「Луна прекрасна」
「あ」
「あ?」
「ロシア語ではルナですか。ラテン語に思ったよりずっと似てるんですね」
「おまえ、ラテン語なんか知ってたのか」
「学んだことはありませんけど、常識程度の語彙は知ってます」
「それにロシア語、って」
「そっちはちょっと勉強しました」
「いつ」
「今年に入ってから」
「なぜ」
「あなたにもうちょっと、近づきたくて」
「ストーカーか」
いやあの、言語学習のストーカーって。だいたい俺たち、付き合ってるんですよね。
「通勤時間に車の中で、ラ講でも聞いたんだな」
「あなたこそ、見てたみたいに」
「おまえのやりそうなことは想像がつく。他にひねり出せる時間も場所もないだろうし」
「……」
まいったなと思った。
フランス語ができることは知られているので、過去に試して通じなかった言語をピックアップしたのだろう。だが青木が予想外に進化しており、戯れが通じてしまったことをごまかすために、薪は話題を広げたのだ。
俺のやりそうなこと、俺の動物的行動パターン、全部見抜かれてるんだろうな。まいったな、ほんとに。この人、口に出さないだけで、俺のこと。
「薪さん、」
「雲が出て来た。もう切るぞ」
「あなたが言いたくないなら、何も言わなくていいですから」
「聞きたくもない」
「え」
「電話では嫌なんだ」
「俺、以前も言ったこと、あるでしょ」
「今は嫌なんだよ。しらじらしくて、どう返せばいいのかわからない」
「でも」
「次に会ったときに聞かせてくれればいい」
「……はい」
「月がきれいだから」
「曇ってても?」
「曇ってても」
それで電話は切られた。端末を見つめると残された短い通話時間がまぶしかった。
まいったな。あの人どうしてあんなに、俺のこと。
さびしく感じさせたかな、と思った。夜空を見上げるときの薪はときどきそうなる。宇宙の深さに吸い込まれて、失った家族、愛した人々とその喪失感が、体温を下げるようによみがえるのだという。
普通の、という言い方はしたくなかったが、年齢差や上司部下という関係だけでも、自分たちがじゅうぶん「普通」と言い難いことはわかっていたつもりだった。それもあって薪が自信なさげで不安そうにしていたあいだは、むしろ青木は想いをぶつけて、単純に突き進んでこられた。
真正面から受け止められると、今まで伝えて来た言葉の重みが自分に跳ね返ってくる。あの人に俺でいいんだろうか、少しでも追いつこうといくつかの言語をちょっと学ぶ程度の能しかないような、そんな俺で。
次に会ったときに、と言われたことは救いだった。顔を見れば、あのまなざしに捉えられれば、自分たちは間違いじゃないと信じられる。
「もう、会いたいです」
月を見上げて呟いた。共有する夜空に架かった輪光が、ためらいのない瞳に見えた。
* * * * *