雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

「パリパリの羽付きを味わうための一考察」

 

こんばんは。

今夜はどこから説明したらいいのやら……

ええとまず、なみたろうさんが餃子を作ったんです。

 

そしてその理由が、 青薪舞の家族団欒のためである、と認定されたんです。

※続きがありますのでぜひついったまで飛んでください

 

さらにその夜の青薪について、課題が出されたんです。

設問は、

・餃子

・あーん

・お行儀が悪い

・おくちを開ける

パリパリの羽付きも入れてみましたが、弊社の青木はどうしてもSになりませんでした。

 

今日締め切りの仕事を仕上げるのに必要な書類がさっぱり届かず、仕事のかたわらっていうか興が乗って書いていたら、つまりこんな感じ:

 わたしに書類を出さなければならない複数の若い人々

 ↓

 資料となる複数の書類を待つ管理人

 それがないと自分の書類が作れない

 ↓

 事務方のケイちゃん(=今日締切ですよ、と電話くれた)

作れない、ことを口実に、夜中までずっと仕事と猫とついったをぐるぐる回ってたら、ちょっと長くなった。

青薪舞苦手なので(=自分ではうまく書けない、という意味)どうなることかと思いましたが、事前にネタを提供していただいていたため、なんとかなった、ような気がします。

なみたろうさんの餃子のツリーにもページメーカーで貼っておきました。餃子のオンパレードですww ←ここに至るまでの展開がほぼお祭りだったので、ぜひツリーを追いかけてお楽しみください。

 

折りたたみの後、一気読み?のためのベタ打ち版です。

なお薪さんが舞に読んでやった本はこちらです。

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煽ってくださった??ERI さん、なんか書けちゃいました、ありがとうございました!!

 

 

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パリパリの羽付きを味わうための一考察

 

 

 改装したときに、長い廊下を渡った離れに浴室のある客間を作った。ゲストが気兼ねなく休めるようにというのが本心だったが、脳内で想定されていたその客がもともと薪だったので、ちょっとした呆れ顔と白い目までが予想された範疇だった。

 アルコールが多めに入った。顔に出ることはなくても、多少はしゃいで見えたのはそのせいだったのだろうかと思う。舞のほうは手作り餃子の折りたたみ合戦で興奮しっぱなしで、薪ちゃんに食べさせるんだ、とそもそも朝からテンションの高さが半端でなかったため、寝付くのは早かった。

 「あの子、あなたと一緒に食事ができるのを、二週間も前から楽しみにしてたんですよ」

 「何が嬉しいんだろうな。おじさんの上司のおじさんと相席なんて」

 青木は台所を片付けたあと、酔った薪に対する心配を口実にして、離れで一緒に風呂に入っていた。湯船の縁に頭を預けて目を閉じた恋人を、寝るならこちらで、と前に抱いて、洗い髪をかきあげた。

 あらわになった額がなまめかしくてくちづける。いつも不思議だった、この人を限界まで突き崩したい、その瞬間しか見られない顔が見たいという情欲と、ただ黙って安心したように眠る姿を守りたいという気持ちと、そのふたつが同時に折り重なって湧いてくることがある。

 「舞はあなたがあの子を大切に思う気持ちを、ちゃんと感じ取ってるんです」

 「ふうん……」

 「何を読んでやってくださったんですか。俺が洗い物してたあいだ」

 「『世界を変えた17の方程式』」

 「嘘でしょ」

 「だって僕が持ってきた本がいいって言うから」

 「理解できたんですか。小学生が」

 「安心しろ、最初の方程式に入る以前のまえがきで寝落ちした」

 日本酒が入った状態で長風呂はよくない。青木は薪を抱き抱えて一緒に湯の中から立ち上がり、並んで浴槽に腰掛けた。

 「無理してたんじゃ、ないですよね」

 「なにが」

 「舞まで、あーん、とか」

 「子供よりおまえのほうが問題だろう」

 「まさかほんとに手から食べてくださるとは思わなくて」

 「猫かよ」

 猫よりよっぽど難しいですけど、とこれは心のうちに留めておいた。

 「初めてだったんだ。ああいう、手作りの」

 「あ。ほんとに?」

 「ちなみに餃子そのものは二回目」

 「えええ」

 青木は本気で驚いていた。「あなた、庶民的な経験って意外にあちこち欠けてますよね」

 「僕がラーメン屋に入ったりすると思うか」

 「いくらなんでも、学生時代に鈴木さんと行ったでしょう」

 「だから、それが1回目」

 ああ、と青木が納得した。

 「じゃあ今度俺と行って、三回目をどうですか」

 「バカだな、最高の手作り品を知ったあとで、なんで店のを試す必要があるんだ」

 薪が立ち上がってざぶざぶと水面を揺らし、広い胸の前に立った。それで同じ顔の高さとはいかないけれども、肩に手を載せ、さっき青木がしたのと同じく、額に唇を寄せてきた。

 「お返しだ」

 「俺、餃子臭くないか心配です」

 「ほんとバカだな。同じものを食べたのに」

 薪はひどく機嫌がよかった。「浦霞」のせいだけではないだろう、たぶん尋ねれば否定されるか黙り込むかだが、食卓を囲んだのが嬉しかったにちがいない。あるいは人生で二度目の逸品が、親友との思い出と、新しい記憶と。

 瞳が一瞬うるんだと思った。細めた瞼は、欠如した羞恥心への諫めとか矯めとか、自制に従わないことへのごまかしだったのかもしれない。

 「薪さ――」

 柔らかい唇が耳朶を辿り鎖骨を滑りおり、折った膝に従ってあっという間に臍まで下った。両手の指が太腿と脇腹にそれぞれかかって掴まれた。夕餉の席で開けるように促された口は、いまそのときよりも大胆で繊細にひらかれて青木を包み込んだ。また沈んだりしてのぼせるんじゃ、となけなしの理性を保とうとしても、一気に吹き出した汗にむしろ自分のほうがあぶない。

 「ま」

 「dまってr・o」

 「お行儀が、悪いですよ」

 まだ抵抗して何か言おうとしたその舌も、他のことに忙しくてもうまともな語彙を発しない。

 お返し、だって? 背の順みたいに並んで座ったテーブルでぱくぱくと、両脇から差し出される箸にためらいもせず食いついた。怒鳴って叱って、戦って、いつも厳しい言葉を発するその場所が、この家のダイニングで、風呂場で、シーツの上で、何のために開かれるか、世界中でふたりしか知らない。

 「まき、さん」

 ふうと大きく息をついて熱を逃す。たまの眺めだ、惜しいけれど、酔った勢いにするのはもっと惜しい。「あがりましょう」

 なぜか不満そうな恋人を抱き上げて、大きなタオルでくるむとそのままベッドに運んだ。まなざしがとろけだして四肢から力が抜けていく。

 「まだ、眠らないで」

 「……ん」

 「俺に甘えてください。もう少し」

 開けた窓を通る夜風にも引かない汗が、水滴のレースになって白い肌を覆っている。模様をつなぐようにそっと爪でなぞると、薪が背中をひねって甘い声を漏らした。

 「あおき」

 「はい」

 「大丈夫、いい匂いがする。いつだって、おまえの」

 「え」

 「だけど何もかもデカすぎるんだよ」

 「な」

 「パリパリの羽付きが刺さって――」

 寝ぼけた物言いを途中で塞ぐ。とんでもない口だな、まったく、と情欲と庇護欲のはざまで舌先を絡め合う。

 「閨で惚けるなんて、お行儀が悪いですよ」

 我ながら妙なことを言ったと思ったが、自重できたのはそこまでだった。ふたりの体温と夜の空気が墨絵のように混ざり、部屋を混沌が満たす。この人を家族として迎えたくて巣作りをした。そのために整えた客間を目的通りに使おうと、青木は咲き誇り始めた薪のからだをそっとひらいていった。

 

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