雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

秘密の記憶喪失

 

こんばんは。
何度か書いてますが、わたしは主に水回りに立つとき、着替え中とか風呂とかお茶を淹れてるときとか、ずっとドラマか映画を見ています。アマプラ専用にしている古いiPadが複数あって、たいてい2つくらいのドラマを並行して追いかけています。数分とか下手すると数十秒ずつとかの細切れで見るのが全然平気で、そういう状態で見てるので、忙しさに関係なくドラマはひたすら見てます。
 
 
2周目に入ったNCISのシーズン3の最終話で、主人公の捜査官ギブスが爆発に巻き込まれ、過去15年の記憶を失いました。
もうこの時点でダメでした。ギブスは鏡に映った「15年年老いた自分」に違和感を感じているのですが、それ以上に15年前の彼は、奥さんと娘をマフィアに殺された直後だったのです。悲しみの只中にいる、という状態で目覚めてしまったわけです。
 
薪さんだったら、と思うとね……本誌で現在41歳、15年前だと「第九」発足(=29歳時)よりはるかに前でややこしいので、試しに「10年ぶんの記憶を失った」としてみます。
31歳までの記憶しかない薪さんは、「第九」で毎日顔を合わせて一緒に仕事してる鈴木さんがこの世にすでにいないことを知らない。それを周りから告げられるわけです。しかも支えてくれるはずの岡部さんのこともたぶんわからないし、青木に至ってはこの世に存在してることすら知らない。
一時的な記憶喪失だから、ストーリーの展開上数日〜数か月で元に戻るのですが、それまでの日々を絶望と孤独の中で過ごすのかと思うと、そしてそれを支えられない青木がどれだけ焦燥感と苦悩にさいなまれるのかと思うと、ちらっと想像しただけで胸が張り裂けそうです。
 
さらにいえば、たとえば3日くらいで記憶が戻るとしても、その3日間の悲しみは新たな記憶として残ってしまいます。乗り越えたというよりも胸に抱えてずっと保持したまま生きていく決意をした(←管理人の解釈です)鈴木さんのことに、その3日間の最新の悲しみが追加されてしまう。
 
NCISのギブスのほうは、爆発時の昏睡からなかなか目覚めることができず、医者が「(人生がつらすぎて)目覚めることを拒否してる」と言ってました。悲しすぎる。目覚めたあとももろもろあって、結局立ち直れずに辞職してしまいます(次のシーズンで復職しましたけど)。
薪さんは、鈴木さんと一緒に作りあげた場所であり彼を失った場所でもある「第九」を、本編のときと同じように、去ることはできないでしょうね。
 
妄想してるだけでしんどい。そういうわけで、記憶喪失ネタは残酷すぎるため、うちでは扱いません。
 
 
記憶ネタついでにもうひとつ。
だいぶ前の話なのですが、戻れるとしたら過去のどの時点に戻りたいか、と聞かれたことがありました。相手はいつもそんな話をする人じゃなかったのに、その日聞いてたラジオに話題として出てたそうで。
 
過去を振り返ると、今よりさらに物知らずで愚かだった自分に戻りたくないし、貧乏で常にハラを減らしていた時代も長かったし、若いときは生きてるのが普通につらかったし、自分の人生は好き勝手に生きてきたので、いつの時代でも全然戻りたくない。
何かをやり直せると言われたら、つまり内面だけ現在のままで過去に戻れるなら、現役時代に不合格で諦めた志望大学に今なら受かるだろうけど、その先何になるかは変わらないと思う。いっぽうで進路をがらっと変えて北大の獣医学部に入って獣医になったとしても、自分が満足するような獣医になれる気がしない(←真性文系だから)ので、そっちはやめといたほうがいい。
 
こわいのは猫たちのことです。
道の真ん中に落ちてたのをたまたま通りがかって拾ったとか、泣いてるかすかな声を偶然聞きつけて拾ったとか、国道を横断してた子猫を片側3車線のど真ん中に車止めて追いかけて拾ったとか、偶然見つけた猫がいっぱいいるので、過去をやりなおしたときにその日その時間にちゃんともう一回拾えるか心配です。
亡くした猫を、あそこをやり直せば救えるんじゃないかと思うことがないこともないけど、それでまた亡くしたら、どこまでも人生をやり直したい気持ちになってしまうのが怖かったり、どこかで辻褄合わせに他の猫を亡くすんじゃないかと思ってしまったり。
 
なんてことを本気で考えてしまう。
そしてすぐに、東北の太平洋側の人間の性として、震災の前に戻りたい人はたくさんいるだろうな、と申し訳なくなります。
 
薪さんと青木についても同じようなことを考えます。
あのふたりにはそれぞれ明確に修復したい過去の一時点があって、そこを直せるならたぶんなんでも捨てるでしょう。青木が捨てられないのは舞くらいじゃないかな。
考えただけでツライ。なにを捨てても取り戻せないからつらい。
 
 
NCIS:LAで「定番の悪夢は?」という質問ネタがありましたが、夢とか記憶とかは薪さんの幸せにとってほとんど禁忌ですね。
そこを乗り越えて「データ消失2016」みたいに話ができるようになったら、そこがあの方の心の平穏なのかもしれない。