雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

カジノ・ロワイヤル シンドローム

 

こんばんは。

さっき突然思い出したことなのですが、他に書く場所もないしあとであげる「理由」のせいでよそで言うこともできず、といちいち言い訳したくなる程度にはいまさら特に重要なことでもないんだけど、とにかくせっかく(?)思い出したから書いておこうと思った昔の恋バナらしきものがあります。

薪さんとは関係ありませんのでお暇なかただけお付き合いください。長い話ですがたいした中身ではないです。

 

 

学生時代に深く付き合った元彼が何人かいて、そのうちのひとりのショウタロウくん(仮名)が、年齢も学年もひとつ年下の、サークルの後輩でした。やさしい人でしたが、彼はわたしが留年したりしてのろのろと人生を送ってるあいだに法学部卒(←唯一の文系の元彼)の王道の銀行員となり、生活のリズムが合わなくなっていきました。

最後はどうして別れたのかはっきりした理由はなかったけれど、それ以前以後の多くの元彼と同じく、

「ひどい女だな」

と言われたことは覚えています。これは言われ慣れていたことばですが、言った人たちはみんなわたしが彼らを人生でいちばん愛していなかったことを責めていました。当時は最愛の猫にもまだ出会っていなかったし、にんげんの男をそんなに愛する義理もなかったので、「そんなこと言われてもな」と思ったものです。 ←だから「ひどい女」はたぶん合ってた

 

で、そんなセリフが出る程度には泥沼の別れ劇があったはずなんですが、あったということしか覚えてない。

それなのにその後も彼とはなぜか多少連絡を取り合って、なぜか一緒に演劇を見にいく約束をして、なぜか当日連絡なしでドタキャンされ、そんなことが2回続いて、

「ああこの人は笑顔で「これからもなんでも言って」とか言ってるけど、わたしを傷つけて復讐しようとしてる」

と、どらまちっく(=陳腐なドラマっぽい、という意味)なことを考えたりしたものです。

 

が、そんなことはいまさらどうでもいい。

付き合いにかげりが出始めた、別れる半年ほど前の5月の第三金曜日、自分たちは続かないだろうと予感したらしい彼が、そのとき食事をしていたレストランで、

「いまの倍の年齢を生きたら、世界中どこにいても、ここでまた会おう」

と、どらまちっくなことを言ったのです。

まだ若く、彼がすでに傷ついていることを感づいていたわたしは、なんというかそういう話を真剣にうけとめてしまいました。

で、年齢が当時の倍になったら、その年齢の5月の第三金曜日の夜7時に、そのレストランの前で会おうと、誰と結婚していてもどんな仕事があっても絶対に会おうと、約束したのですが。

やつは自分がそんな感情にまかせて言ったこと、遅くとも1年後にはきれいさっぱり忘れていまして。わたしも記憶の中だけにはそうしたもろもろのことを抱えていたものの、本当に行くかどうかはそのときになったら決めようなにしろウン十年後だし、と思っていたものです。

 

それが去年だったんですね。

もちろん行きませんでした。理由はコロナとはまったく関係ありません、わたしは連日自力で荷物を運んで引っ越しをしていた頃で、しかも癌の手術直後だったからです。つまりそれどころじゃなかったし、もっと言えばころっと忘れてました。

実をいえばいまから1年くらい前には、たぶん覚えてて思い出してた。すでに県外にいるのでそのために行く気はなかったけれど、当日もし出張があったら寄ったと思う、奴が来てないことを確認して、経験にケリをつけるために。センチメンタルな感傷は皆無でした。でもその後の人生の一大事で、それどころでなくなった。

 

以上のようなことを今夜突然思い出したついでに、若い男の子って先の見通しのないこと平気で言うよね、と当時いちいちイラッとした気分とか、あんなに「彼を傷つけた」と思い悩んでいた自分のその悩みが杞憂でしかなかったことや、数年後に今の連れ合いと付き合い出してからはそれ以前の元彼ズのことをほぼまったく思い出さなくなったことなど、そんなことを思い出して、若かったなあ、と普通の感想を持ちました。

 

なお、「ひどい女だな」と言われる現象については、のちにわたしの中でケリがついています。

2006年の映画『007 カジノ・ロワイヤル』でヴェスパーに裏切られた(と思った)ボンドが、その後「女なんて」と本気で女性を愛さなくなり斜に構えて、遊びで女性と付き合うようになった、その姿を見たときに、

「それだよ! 純情を傷つけられたからって女すべてに当たってんじゃねーよ!!」

と思ったものです。

この、「男性が真剣に惚れた女にフラれて「女なんか」とスネる」現象を、わたしは「カジノ・ロワイヤル シンドローム」と名づけました。個人的に。そしてそれによって一気に、それ以前の「ひどい女だな」と言ってきた元彼ズに対する「悪かった」という気持ちが雲散霧消し、たいへん晴々としたものです。一方的な愛情を押し付けてくるんじゃねーよ、悪いのはわたしのほうじゃなかった、と思った。

 

わたしの側に悪かった点があるとしたら、結婚願望がないどころかしたくなくてかつ人と生活すること自体に向いてないとわかっていたのに、普通の男性たちと付き合ってしまったことです。当時はまだ、頑張れば普通のにんげんのふりをして生きていけるんじゃないかと思ってたもので。

とはいえ今になって振り返ると、そもそも付き合った元彼ズの

「どこに飛んで行ってもいいから俺のところに帰ってきてほしい」

とか(←実際言われた)、そんなこっちをコントロールしようとするわがままな気持ちに振り回されて、なんでそれにほんのちょっとでも合わせようとしたのか、どうせ無理なのわかってたくせに愚かだったなあ、と思います。

こっちがそんな、生き方をねじ曲げるような心理的努力をしていたときに、勝手に「俺を愛してない」と怒ってスネるような奴らとは、どのみちうまくいったはずがないので、双方若気の至りということで手打ちにしたいと思います。

 

以上、たいへん取り止めのない文章となりました。くだらない話に付き合わせてすみません。青春は疲れる、二度と戻りたくない、と思うゆえんです。