雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

SS「真夏の果実」

 

同級生がFacebookで「7月27日はスイカの日」と呟いてるのを見かけて、今年はまだスイカを食べていないことに気付いてしまいました。

わたし南国フルーツにほんの少しアレルギーがあるんです。そういう人は結構いるらしいです、パパイヤとかパパイン酵素入ってますしね、わたしはあれで肌が荒れます。食べて喉がかゆくなるのはキウイ、咳が出るのはメロン。でもメロンは食べる。あとは他のフルーツでもなんか軽い症状が出てるかもしれないけど、食べたい意欲の方が強いのでもう気にしない。

理想は青木みたいなのが切って皿に盛って出してくれる状態です。自分で皮を剥いたりするのがついつい億劫になるという、究極の料理しない系なので。

それでも食べたいのは桃とラ・フランス。あとマンゴー。おとなになってから口にして、世の中にこんなうまいものがあったのか、とびっくりした食べ物のひとつです。香港の市場で安くて大量なのをついつい買って、どうせ食い倒れの旅だから食べきれないのわかってるのにそれでも我慢できずに買って、マンゴーはいいけど皮剥くのが怖かったのがマンゴスチンですね。あれ殻が青木の骨みたいに固くてねー。たぶんうまい割り方とかあるんでしょうけど。でもあれならライチでいいなと正直思いました。

 

とにかく、気付いてしまったらスイカが食べたい。

ということで、ふるさと納税のスイカの話です。まんまです。

 

 

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真夏の果実

 

 

 ことに先立って風呂を洗っておこうと、青木が献身的な下僕さながらの精神で浴槽の蓋をはずしたところ、中は既に水が張られていて、そしてなぜかスイカが一つ浮いていた。

 「薪さん。風呂場に先客が」

 「冷蔵庫に入らなかったんだ」

 「そんなわけないでしょ、ここの冷蔵庫は巨大でいつもからっぽじゃないですか」

 そう反論した青木を薪が冷たい目で見たので察して野菜室を開ければ、果たしてそこには夏の大玉が既に2つも入っていた。

 「どうしたんですか、これ」

 「おまえが送って寄こしたんだろうが」

 「……俺が?」

 「尾花沢から。ふるさと納税で」

 青木はしばらく無表情でその意味を咀嚼し、たどり着いた答えを披露した。

 「舞です」

 「は」

 「母がずいぶん前から俺の名前でやってて、最近は目が疲れるって孫にその役目が回って」

 「なにを」

 「ふるさと納税です。四季の果物が届くんです」

 「おまえ、税金で給料もらってるくせに、自分は払わないつもりなのか」

 「ふるさと納税は納める自治体が変わるだけですし。給料は国税がもとですし」

 「そのありがたいやつがなんで僕のところに来たんだ」

 「あの子が、ええと、なにかおいしいものに遭遇するたびに、薪ちゃんにも食べさせたいなあって言うんですよ」

 「「たびに」?」

 正確には舞がそれを呟くのは、遠くにいる恋人の頼りない食卓事情を案じた叔父がいちいち情けない表情をすることに、敏感に反応しているからだった。青木は繊細な姪っ子のそんな心遣いに気がついていたが、そこまで話したら子供にまで恋心を察知されているダダ漏れぶりをひどく叱られるに決まっている。

 「一昨年でしたっけ、あの子が最初に暑中見舞いを書いたの。あれで住所を覚えてたんだと思います」

 当初だいぶ苦情を述べるつもりだったらしい薪は、経緯を知ってすっかり矛先を収めてしまった。薪の感情を鎮める「最後の手段」は実によく効く。このままじゃ風呂が使えないからとにかく1個切ってくれ、おまえが四分の三いや五分の四食うんだぞ、と言う。

 「あなた南国フルーツでおなか壊しそうなタイプですもんね」

 「カブトムシ扱いするな」

 「ご面倒おかけしました。スイカじゃまさか科警研まで差し入れにぶらさげて持ってくこともできませんよね」

 「岡部にでも車で取りに来させる。今日は心遣いをありがたくいただくよ」

 「このぶんでは、桃とかラ・フランスあたりも届くかもしれませんよ」

 「何個ぐらい」

 「うちに届いてるのから推測すると、16個とか」

 「……せめて半分にしろって伝えといてくれ」

 「言っときます」

 「それと、ありがとうって」

 「それも伝えます」

 実際には喉が乾いたらけっこうな量を消費するだろう。割って皮をはずしてブロックに切って、冷蔵室に納めておけばいい。食べさせるときには相当気をつける必要がある、シーツに一滴でも汁をこぼそうものなら全面的にこちらが怒られる。って考えてみれば理不尽だよなこぼすのはこの人の口で、洗濯するのはどうせ俺なのに。今日はからだを冷やさないように見張っていないと、と子供の仕事ぶりに感謝して、気の利く犬は早くも先のことに思いを馳せた。

 

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