こんばんは。
某メルカリで、スーパードール薪剛、を見かけました。見かけたのは初めてじゃないんですが今回は小物が充実してました。
他メディア化にアレルギーがあり知識も皆無なので説明文もほぼ暗号ですが、なんか一瞬興奮してしまったのが、たぶん銃を撃つとき用の革手袋と、チェックのパジャマです。公式で出てないものなのに同じページに「薪剛」って書いてあるだけでドキッとする。
そっち方面にはまらなくてよかった……素質はあるんですよね……ジェニーの本をやまほどと人形を一体持ってるので。どうでもいいことですが本家ジェニー以上に人気のあったおともだちのエリーは、浅黒い肌の旧バージョンに限ると思っています。
* * * *
さて先日、なみたろうさんに「アイスの実」で励ましていただいたのですが。
本日は、梅雨に入ってから身体が重くてご飯が入らなくて背中が痛くて仕事以外はたいていベッドに埋まってるというなみたろうさんを励ますために、わたしから鈴薪の青春の一コマを語らせていただきます。
あ、色気はないです、期待されないように先にお断りしておきます。
元ネタはこちらの鈴木さんの浴衣です。
「まーき?」って言ってる王子です。
よそさまのついったをさらしていいものかどうか多少迷ったのと、いずれ色が塗られて美しくバージョンアップした姿がなみたろうさんのところで紹介されるはずなので、スクショ?です。
書きかけの書類で埋まってるいつになく散らかったデスクトップは無視してください、こんなのマックユーザーのデスクトップとして恥ずかしい……
いいよね、浴衣……パジャマシェアとか彼シャツとかとはまた一味違う夢が見られます。
* * * *
夏蝉
両親が亡くなったのは薪が8歳のときだったと聞いた。つまり小学校の3年生だ、その時点で飛び級なんかしていなくて、普通の学校に普通に入っていたと仮定しての話だが。
幼い頃から利発だったのは間違いないだろう。父親とも母親ともよい思い出がいろいろあって、そのうち語ってくれるに違いない。だがそれから10年一緒に暮らした澤村との日々は、その火事の夜の謎を心にひっかけたままの、同年代の少年たちが享受していたことはあまりできなかった期間だったはずだ。薪は子供時代を一夜にして奪われ、支えてくれるべきおとなたちを何度も繰り返して失い、ひとりぼっちで生きてきた。遺骨を抱えてゆっくりと顔を上げ、自分を見つけたときのあの途方にくれた目を思い出し、鈴木は目の奥がつんと痛むのを息を止めて押さえ込んだ。
先週声をかけたときにはめんどくさそうな返事をしてきたから、有無を言わさないために自分の家同然に勝手に上がり込む。あれから2か月のあいだ、理由をつけてはここで時間を過ごし、泊まり込み、なんとか一日一食くらいはまともに食事させることと、庭先で洋書を抱えながらうっかり居眠りして日焼けする事態を避けることだけは、習慣として身につけさせた。
家にひとりでいるときの場所は、ベッドのある自室か森のような書庫、だが薪がどこにいても鈴木には簡単に見つけられる。空気の匂いが違うからすぐにわかる。今は西日の差し込む縁側で陽を浴びないように東に座面を向けて、一人掛けの大きなソファに埋もれている。
名前を呼べばすぐに目を開けるのがわかっているので、鈴木は浴衣の袖から手を入れて腕を組み、友人の小さく丸まった不思議な寝姿をじっと見た。小動物みたいに頼りなくて、空の何かから選ばれて降りてきたかのごとく神々しい。
「……鈴木?」
睫毛の影が揺れて薄い琥珀の瞳がまぶたの隙間から覗いた。
「迎えに来た」
「なん、の」
「散歩に出よう」
「……」
「もうまもなく日が暮れるから。出歩くにはいいくらいになる」
「なにが」
「気温も湿度も。時間も」
「おまえ、浴衣で横浜から来たの?」
「悪いか」
「よく電車で痴漢に遭わなかったな。そもそもは寝巻きだろうが」
おまえに言われるとはね、と思ったものの、鈴木はそれを口に出さなかった。言えば持参した柄違いの湯取りを着せたくなくなる。
薪が真夏に冬眠から目覚める子りすのような伸びをした。少し汗ばんだうなじに数本の髪の毛が張り付いていた。
「腹が減った」
「おまえはおまえが学校に来るかおれがここに来るかしないと、ほんとにろくにものを食べないんだな」
「うなぎでも食いに行こう」
「うなぎ? おまえが?」
「ふたりのときじゃないと食べられない。おまえが1.7人ぶん消費してくれるだろ」
「身長比で言っても多すぎる」
「体重比だよ」
「それでも合ってないぞ」
「行くのか、行かないのか」
「行く。薪」
「なに」
「シャワー浴びてこい」
「なんで」
「日向で午睡して汗かいただろ」
我ながら苦しい言い訳だと思ったが、薪は首筋からシャツに手を入れて鎖骨をさすると、そうだな、と素直に立ち上がった。
「おまえも着ろよ」
「うん」
「……何のことかわかってんのか」
「浴衣だろ。持ってきたんだろ」
薪はすれ違いざまに長身の陰の紙袋を拾っていった。
広いガラスを通した庭の景色で、蝉の声が響いていた。俺は気を遣い過ぎなのかな、と流し目でわかったような微笑を唇に載せていた横顔を反芻する。気難しくて面倒な友人に、夏や秋や、その美しさや、なんでも知っているつもりでも俺がおまえに教えられるこの世の素晴らしい光景がまだあることや、それを伝えたいだけなのに。あんなふうに笑うのなら、ずっと一緒にいられるなら、あいつが人生は悪くないものだとまた思える日が来るのなら、それを見たいだけなのに。
「いや。薪が悪い」
わかってて着るつもりなら、はじめに提案したときから素直にそうすればいいんだ。あいつは夏の蝉みたいに気まぐれだからな、と蝉の気持ちなんか1ミリもわからないのに、鈴木はやっと状況に折り合いをつけた。
* * * *