こんばんは、相変わらず寒い北東北です。
毎日のように病院に(←猫の)通っているのですが、通り道でたまに見かける桜も、本日まだほぼまったく咲いていません。県南のほうに桜のでかい公園とかあるんですが、他県っていうか首都圏ナンバーの車が多くて、閉鎖したそうです。県北の地元民には、そもそも色気出して開けたりするからそうなるんだ、千葉のチューリップ刈り取りを見習え、と評判悪いです。
ほんとにいっぱいいるらしいですよ、「コロナ出てないから遊びに来た」と、名乗る観光客。来たことより名乗るという行為に驚愕。
さてそんなことより。
「恋人と一ヶ月以上会ってない」
という知らない人の呟きを見かけて、これは青薪にはデートさせねば! とカッとなって(←ツブさんの真似)、1時間で(←ゆりさんの真似)なんか書きました。
春の短歌をお題に何か書きたいとここしばらく試行錯誤して、書きかけのまま まとまらないやつが何個かあったのですが、仕切り直してみたらなんとかできた。たまにはこんなおだやかな夜もあるんじゃないかという、びっくりするくらい色気のないおはなしです。
話の中で登場するバタフライピーは、画像検索していただけるといろいろみられます。めんどくさい方のために引っ張っておくと、このへんが視覚的に派手でよろしいかと。
わたしはカレルチャペック紅茶店で購入したことがあるのですが、なぜかいつも青ではなくエメラルドグリーンになります。そっちもきれいです。
色気のないサーバーで申し訳ない。
あとこちら、上の写真を探していて発見した、この流れとまったく無関係な なみたろうさんへの私信。
薪さんの寝室のサイドテーブルはこんなのを想定しています。
End Tablefallingwatermuseumstore.org
フランク・ロイド・ライトの落水荘のサイトで売ってます。タリアセンのフロアランプとよく合うはず。高いけど。
タリアセンが出てくるおはなし = 「木漏れ陽」
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春の夜、胡蝶の夢
かすかに古風な和の感覚からすると、うかつに口にしてはいけない秘密の飲み物に見えた。
バタフライピーという植物だと聞いて、ブルーマロウかな、それにしては濃すぎるな、と口に出さなかった自分をよしと思う。耐熱ガラスのカップを木の皿の上に置いて、毛布の下の曲げた膝の上に載せている。横から見るとラッセンの夜空並みに深い色が、上から覗き込めばわずかに碧がかって、星の雫を散らしたい欲求に駆られる。
普段あまり使われないベッドサイドのテーブルに同じくすべてが透明なポットがあり、おまえが欲しがるかどうかわからなかったから一応置いといた、と薪が言った。いつもはコーヒーをがぶ飲みしていても、ほんの少し風邪気味というよりはそうなりそうな予感に自分のからだを労っているのを、それがほんとうに薪自身のためではなく遠いところへ短い休暇のためにやってきた献身的な恋人への方便であっても、好ましく思った。
「いただきますけど。俺でも大丈夫ですか」
「どういう意味だ」
「あんまりすごい色なんで、魔法の飲み物に見えます」
「おまえ、僕と知り合って何年になるんだ」
長い指がガラスを包み込んで眠たげな唇に運ぶ。「まだ学習しないんだな。まともなお茶のわけがないだろうが」
膨らませた枕を背中にして、春先の肌寒さからふたりを守る毛布の中に一緒に潜り込む。揃いのカップに慎重に4分目程度の青い液体を注ぎ、おっかなびっくりすすると、味も香りもほとんどしないことに拍子抜けした。
「爽やかさ以外何もないようなハーブティーですね」
「でもいい色だろ。明るい宇宙みたいで」
「朝とか昼間のほうが映えるんじゃないですか」
「魔法は夜に機能するもんだ」
そうかな、と少し疲れの見える横顔を見る。どんな光の中でも内側からきれいに輝いて、この人自身がまるで魔術師だ。そんな彼がいれてくれたものなら、確かに謎を秘めた不思議な液体に違いない。
「きっとこんな同じ彩の、羽を広げた花が咲く植物なんでしょうね」
「知ってるのか」
「名前からの想像です。それでレモンとか入れるんでしょ」
「入れたらどうなる」
「俺の予想では、すっごい赤かピンクに変わるはずです」
「……知ってるのか」
「想像ですってば。銀箔とか散らしたいです」
「――そうだな」
「そしたらここに銀河ができますよ」
訝しむ薪の視線が横目でこちらに向けられたのを感じた。
まだ学習してない、って?
「そんなこともないですけど」
青木はハーブに満たされた喉の奥で呟いて、夢のように葵い魔法薬にもう一度口をつけた。
ハーブティーにハーブ煮えつつ春の夜の嘘つきはどらえもんのはじまり 穂村弘
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このあと薪さんは青木に抱っこされて、たいへん幸せな気分で眠りにつきます。
ハーブティー飲んだだけなのでデートとは言えない?? また頑張ります〜。