雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

SS「木洩れ陽」

こんばんは。

今月初めの青木の誕生日にはみなさまの作品で楽しませていただいて、だいぶエネルギーを補給するのと同時に、年内まだクリスマスと次のメロディというビッグイベントが2つも控えてるのに、なにかあるたびによそさまの作品に耽溺してたら自分の体力がもたないんじゃないか、とヘンな心配をしました(あ、あと世間的には忘年会とかもあるんですよね、うちの職場そういうものないんで、これまた忘年会への言及をあちこちでみて、あーそういうのもあるのか一般には、第九っていうか官公庁っていうか警察でもやるのかな〜とか思ったものでした)

ということで(?)自分も、やるつもりのなかったクリスマスっぽいやつを、一応やってみます。

 

 

本日は、その作品を見てるだけで胸がきゅううううぅぅと締め付けられる建築家、フランク・ロイド・ライトが中心のおはなしです。

いつもどおり趣味全開の、長い解説が必要な マニアック度高めのやつです(すみません)。

 

落水荘プラスアルファが7月に世界遺産に登録されていたそうで。

感涙です。そうでしょうそうでしょうあの美しい建築、人類のたからものでしょう。 ←写真でしか見たことないのに言う

こちらの公式?サイトでは、日替わりライブ写真とかライトの世界遺産リスト(しかし落水荘にかなうものはない)とかも見られます。

fallingwater.org

 

ユネスコの存在意義を心の底から承認しました。帝国ホテルだってライト館が現役だったら、たぶんいっしょに登録されてたのに。明治村に移築された部分をだいぶ以前にほれぼれと堪能させてもらいましたが、なんで一部だけなのわたしが総理大臣だったら丸ごと保存させたのにほんとここに住みたい、って思いました。

こちらのサイトが写真が美しいです。

 

ほかに近くで見たのは、メトロポリタン美術館の内部に移築された部屋。住みたかった。

参考記事:

vectorfield.net

 

あと7年ほど前にパサデナのライトの家が約6億円で売りに出されたときには、買おうと思ったんですが、資金が6億円ほど足りず断念しました。

www.home-designing.com

 

 

今回はわたしのそんな建築の趣味全開です。

こちら最初は「恋する翼」の翌週のおはなしだったんですが、モチーフが違うと感じて切り離し、クリスマスっぽい素材を使ったので、クリスマスっぽく仕上げてみました。 おかげであっちがひたすらあんな展開になりました

 

薪さんの寝室にあるという捏造設定の、タリアセンの限定品のフロアランプはこちら。

shopping.yamagiwa.co.jp

 

ううう美しい……!!

在庫のみ販売で売り切れると削除される可能性が高いので、上記ページから引っ張った写真も貼っておきます。

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このおはなしの時点で既に50年以上たってる品なので、希少品で高かったと思われます。 あるいはライトの生誕200周年記念とかで復刻されてる可能性も

「まだこの風を愛していない」の表紙にも使いました。

 

なお通常品はこちらです。

たまにドラマやCMで見かけます。

shopping.yamagiwa.co.jp

 

落水荘をいつか一緒に見に行こう、と言ったおはなしはこれ。

「広葉樹の森に秘密は佇む」

 

この ↑ おはなしの最後で青木が手にした本がこれ。

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お父さんの俊さんは法学部だったわけですから、都市計画の中心人物ってのはどーいうアレだったんだろう、と(何度も書いてますが)いまだに疑問なんですがでも、ということは建築にはマニアックに詳しいはずだ、というところから今回の設定ができました。

文字ばっかりで画面真っ黒なおはなしですが、よろしければ折りたたみの続きへどうぞ。

 

 

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木洩れ陽

 

 ベッドサイドのタリアセンがエネルギーを得て、寝室の6面に薄陽を広げた。フランク・ロイド・ライトの生誕150周年を記念して作られたフロアランプは、通常品と違って反射板が木の葉の形をしていた。建築に造詣の深かった父の記憶と共にあるこの美しい作品を、薪はオークションで最近手に入れた。書籍を除いて物の少ない、何枚かの写真以外には装飾らしい装飾が見当たらない自宅の中で複雑な影を醸す光源は、ひときわ華やかに空間を照らし出している。

 この逸品が届いてから青木が訪ねてくるのは今日が初めてで、薪はこの日を待ちわびていた。2メートルを超える巨大なアンティークの電灯を慎重に組み立て設置するのには、大男の手助けが欲しかった。台座はがっしりとしていて、数値よりもずっと重量があった。支柱を立てて枠とクリプトン球を10セット嵌め込んだ。一枚ずつデザインと大きさが異なるという点で仕様が本物の樹木っぽい葉枝を、指示書の順番どおりに丁寧に差し込んで止めた。見上げる勇姿が完成してから、やっとその日最初のキスをした。

 あまり多くの説明はしなかった。子供の頃自宅にこれがあった、同じものを見つけて懐かしくて買った。つらい思い出は語らずにおいて、青木も質問をしない。薪の本当に楽しそうな気分を察知したらしく、それを尊重してくれた。あの頃も今も、20世紀最高の建築家がデザインした、幾何学と自然美が唯一許された接点で交じり合う作品に、意識を鷲掴みにされて忘れられない。そんなふうに伝えながら、部品に触れて滑らかな表面の冴えを感じた。ファーストライトをふたりで見られるのが想像以上に嬉しくて、「いいもの」を手にしてワクワクする純情な微熱を、近づくクリスマスに関連づけないのが難しかったくらいだ。

 はじめてともしたあかりの樹下で透過するオレンジ色の光をぞんぶんに味わうために、床の上に寝転がってみた。真冬のフローリングは快適な温度の室内でもさすがに冷たくて、暗い森の底から夜空を見上げるようだった。天井の樹影は水面に反射する文様にも似ており、揺れる視界にイメージが滲み、指を繋いだまま蜃気楼の淵に沈んだ。後頭部の痛みに慣れた薪が寝落ちしそうになる頃、起き上がるのを諦めた青木がやっとベッドに手を伸ばして、枕とブランケットをひきずりおとした。

 カシミアタッチの柔らかく厚い布地が薪の肩をくるみ、ついで抱きしめる腕とそれに続く広い背中をまとめてその中に入れた。胸に頬をあてて呼吸していると、自分の吐息がひどく熱かった。まぶたを上げるとその向こうで、建築家の意匠が影となって天井に枝を伸ばしている。いつか一緒に見に行こうと言った、東海岸の森の雄々しく優雅な邸宅、それを作った巨匠の啓示が映る。喧騒を離れた川の上に佇む石造りの家で、水の音を聞きながら、ふたりで暮らしたいと思った。暖炉の前で抱き合って、裸の肌に軟らかい一枚の毛布を纏って、誰も知らない遠い場所でふたりで眠りたいと思った。薪がそんな古典的な幻影を夢に描いたことを、あの写真を隣りで見た彼は知らなかっただろう。こうしてぬくもりの中心に包まれていると、いまがそのときかと錯覚を覚える。いつかこの男と暮らしたい、そう思った陽炎の部屋が、今夜はここに再現され、まどろむ恋人たちをかの地へと連れ去ってくれる。

 「あなたが好きです」

 次に出ると予測していた台詞を言われて、やっぱり、と微笑する。青木は薪を抱きしめて、ふたりでひとつの繭のように固く寄り添い、動きが不自由なまま許されるかぎりの箇所にキスをくれた。

 この樹陰は薪にとって、もう戻れない時間の中の、平和と安寧のある種の象徴だった。目を閉じればいつでもこころに浮かぶ、目を開けていても、視界の少し上のほうにぼんやりと浮かんでくる燐光が、太陽の熱をからだの芯まで届けて温めてくれる。自分を一筋の迷いもなく愛した人たちの、そのまなざしのような翳だった。

 樹下で温め合う鳥みたいに、冬の星座を忘れて心臓の音を聞く。こんなふうに並んでいれば、青木のことがよくわかる。だから僕のこの憧れも、きっと見抜かれているはずだ。夢は実現しなくてもいい、願っているあいだはずっとそれを考えていられる。水平線が区切る一画の、自然に溶け込むデザインの、人間の叡智と地球の美しさが究極の形で融合した、あの素晴らしい邸宅のことを。父が愛した建築家の遺産を、自分が愛する男とまるで共有するかのごとく眺める、そんな日が来るのを、ずっとずっと待っている。

 

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