雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

「黄金比」

みなさま こんばんは。

毎日朝イチから仕事に行くのって、マジしんどいですね。超夜型のわたしにはほんとツライ。社会人のみなさま、社会人であるだけで尊敬します。 ←自分はなんなんだ ←エセ社会人ですごめんなさい

 

新部署立ち上げのワーキンググループ第二回会合(少人数編)が本日またあったのですが。 ちなみに第一回は前日

もう予想通りというか、わたしともうひとりの事務方のふたりに、ほぼ丸投げされました。第一回会合の翌日にすぐ投げてくるという周到さ。わたしの専門だし要求してたことだしやりたい仕事だからいいけどね……(すみません贅沢な愚痴なのは重々承知です) でも2年くらいかけてやるのかなーと思ってたら、来年4月始動だそうで、10か月しかない! しかも運営部にあげるのは年末締切だそうです。いろんなヤバめのフラグ立ちそう。

好きにやっていいのね? 人事発生する案件なのに、ほんとに好きにやるよ?? 出てった腹心の(しかも美人 ←オタクの発想)部下を呼び戻して雇っちゃうからね。

 

 

こんな疲れ方をした日はやっぱり薪さんのことを考えてエネルギーをチャージしよう。 何があった日でもしてますが

 

先日の秘密のキリsトの墓の碑について、調査を続けたらわたしが理解していなかったことがいろいろ判明しまして、またしてもそこから秘密妄想を拗らせて、初めて舞の話を書きました。

あのネタで二次創作は無理だと思ってましたが、できてしまった。アシとして出張してよかったです。妄想だろうが何だろうが最終的に薪さんにつながるならなんでも歓迎。

いざ書き始めたらあっという間にできあがってしまって、それはたぶん、舞に自分を重ねて「薪さんにこう言われたい」という願望が暴走したから、でしょう。

数学の趣味色が強すぎるのでこちらで披露します。

 

このおはなし

=2075年初夏

 舞13歳、中2(2061年11月29日生まれ)

 薪さん48歳(まだお若いんだろうなー)

 青木37歳(おおイイ感じかも) ←でも今回出番なし

 

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黄金比

 

 「マキちゃん、教えてほしいことがあるんだけど」

 舞が数学の問題を持ってきた。「この図の意味、わかる?」

 「なにこれ」

 「青森の山の中の村にキリストの墓があってね、そこの記念碑に刻まれた聖黄金比ってやつ」

 「ふーん……」

 墓云々はこの際触れずに済ませても、黄金比にわざわざ「聖」をつけるのはなぜなのかだけでも、いまさら突っ込む価値もない。しかし数学に興味を持った舞の疑問には答えてやりたいと思った。

 確かに青木の血筋だな、と実感する理由はいろいろある。同年齢の中では身長が高いこと。動物が好きで、周囲に対して基本的にやさしいこと。頭も悪くない。今日の課題は中学生を対象にしたパナソニックの社会貢献型プロジェクトで、応募した子供たちにランダムに問題が配布される。いずれもがいわば社会学と数学や物理を組み合わせたもので、調査レポートが評価されれば特別研究生として英才教育の対象となる。

 もうひとつ、薪のことが好きで仕方ないこと。母親が亡くなってから、青木は以前ほど自由に外泊できなくなった。一日くらいならともかく、まだ幼い女の子をひとりにして週末を通しで薪の元で過ごすわけにはいかない。実際に仕事で出張の場合もあるし、泊めてくれる仲のいい同級生の家もあり、舞なら大丈夫だと思ってはいるが、自分の責任の問題だった。それに思春期の女子の鋭さをもってすればいずれ自分の叔父とその上司の関係に気づかないこともないだろうと、あるとき青木は薪をきちんと「恋人」として一粒種の姪に紹介した。一般論として同性と付き合う人々がいるという布石は打ってあった。舞はものすごく納得した顔をして、コウちゃんはマキちゃんのことが大好きだもんねえ、よかったねマキちゃんもコウちゃんを好きになってくれて、と言った。

 それからはごくまれにだが、薪も福岡に来るようになった。3人で出かけることもあれば、こうして青木の実家でのんびり過ごすこともある。今日は簡単な仕事を持ち込んで書類を読んでいた薪に、数学ならこっちだろうと狙いを定めた舞が質問を持ってきたのだった。図の横には、1:(1+5)/2という数式も書いてある。

 「「聖」は余計だけど、式は正しいよ」

 「この図ではどのへんにあたるの」

 「フィボナッチ数列っぽい螺旋があるだろ」

 写真の曲線に指で触れる。「途中で反射したり曲率が変わったり、意匠化してあるけど。本来正方形から作図するものだからこれは厳密じゃないにしても、ここからここまでは比率として近い図になってる。だからこれを囲むこの長方形がだいたいそんな感じ。Φは黄金比そのものをさすから、1.618とすると平方根は1.3くらい、二乗はええと2.6程度か。数値で考えると、この図では中心をゼロとしても縦も横も比率が正しくない。大文字と小文字があるのも意図的なのかなんなのかわからんな。それは置いといて、目で見た感じではこっちも」

とピラミッド型の三角形を囲むことになる長方形の輪郭をなぞる。真面目に分析してみれば落語並みに笑えて楽しめそうだ。

 「舞。おまえもう将来なりたいものとか考えてるのか」

 「獣医に興味あるんだけど」

 「青木の子供の頃の夢と一緒だな」

 「うん、聞いたことある。舞がそれ言ったら、おお俺と同族だな、って嬉しそうだった。でも」

 悩める少女は大げさにため息をついた。「数学が苦手なんだよね」

 「興味はあるのに?」

 「好きなことができるとは限らないんだねえ。舞は文系脳みたいだよ」

 元々が理系で文転した薪は、自分が他と比べられない天才であることを忘れて、しばし思案した。

 「でもおまえ、言語はできるだろ」

 去年は上智大学の外国語プロジェクトに参加していたはずだ。西夏文字ヒエログリフの研究過程の関連性についてまとめたレポートが学長賞をとって、副賞でディズニー・リゾートへ遊びに行ったと聞いた。カリフォルニアの。

 「実は数学ができないだけの理系じゃないのか」

 「……そんな残念な理系って意味ある?」

 「代数、幾何、解析の中では、どれが一番苦手」

 「幾何」

 即答だった。

 「う。それは」

 ほらね、と恋人の姪っ子はひどく残念な表情を見せた。

 「自分のこと理系じゃないなあって思うのは他にも理由があって。黄金比って、あんまりバランスよくないって感じるんだ」

 「……そうなの?」

 「ちょっと長辺が長い。近似値1.4くらいの、もう少し短いほうがきれいだと思う」

 「舞」

 薪がついに手に持っていた書類をテーブルに置いた。「いや、おまえいろいろ持ってるかも」

 「なんの話」

 「それ、あんまり知られてないけど、定説としてあるんだよ」

 「え。そうなの」

 「うん。黄金比自体があまりにも有名な定理だから、真っ向から反抗する人があまりいないだけで。それにおまえの言ってるその比率は、別に白銀比って名前がついてる」

 「でもこの螺旋は素敵だと思うよ」

 「自己相似だしな。自然界にあるものってなんでこんなに美しいんだろうな」

 「囲んだ四角はもうちょっと詰めたほうがいいと思うのに、螺旋だとなんできれいなんだろう」

 子供の疑問に理由を考えた。

 「続きがあるように感じるから、じゃないか」

 「ふうん」

 舞は知らず遠くから自分をずっと見守ってきた男性を、分析的な目と驚きをもって見た。「マキちゃんて、話してると厳格な科学の人みたいなのに、びっくりするくらい感覚的で情緒的なこと言ったりするよね」

 「それと科学は時として相反しない」

 聞いてしまえば予想内だった返答にふふふと笑う。

 「なに」

 「コウちゃんがマキちゃんを好きな理由がわかった気がする」

 「……なに」

 「不可解だから、でしょ。知りたくて、でもマキちゃんがどんどん違う顔を見せるから、もっと見たくていつまでもどこまでも「好き」が続いちゃうんだよ。螺旋みたいに」

 「ふーん……」

 「マキちゃんがコウちゃんを好きなのは、たぶん反対なんだよね」

 「そうだな」

 あいつはもっと単純でまっすぐで、致命的なほどわかりやすい。ストレートにぶつかってくる。

 「今の話、今度僕がいないときに、青木にしてやるといいよ」

 「どうして」

 「恥ずかしがるから」

 そのとき背の高い叔父が廊下を曲がったところでずっとふたりの話を立ち聞きしていたことを、もちろん薪は知っていた。自分はここ数年でポーカーフェイスをますます強化したけれど、あいつはその方面はぜんぜんダメだ。

 「ねえ。舞と、マキちゃんと、コウちゃんと。この3人って、すごく変なバランスで調和してて、黄金比みたいだね」

 「黄金三角形、ってのもあるよ。知ってる?」

 「教えて」

 「二等辺三角形で、長辺2つと短い辺の比が黄金比になってるやつ。これも対数螺旋を内包してる」

 非対称性を内接させた図を書類の隅にフリーハンドで簡単に描いてやると、舞は目を輝かせた。

 「これが3人なら、短い辺の舞がふたりを支えてるみたいじゃない?」

 「またずいぶんありがちな分析だな」

 「だって自然界の定理って、単純であるほど美しくて真実なんでしょ」

 「おまえやっぱり、数学ができなくても理系だよ」

 「物理もできないんだけど……」

 「う。それは」

 薪が中学生のときには、もう京大の理学部の教授陣と、大学院レベルの共同研究をしていた。舞にもなにか道筋をつけてやれば、なりたいものになれるような教育を受けさせてやれるかもしれない。

 そんなことを考えながらも、自分だって仮面の下の心は真っ赤だった。まさかこんな歳になってから、中学生をあいだに挟んで恋人とじゃれあう日がくるとは思わなかった。

 この純粋さもあいつゆずりだな、と思う。薪には抗う術がない。

 

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