雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

「琥珀色の春休み」

こちらのスクリーンセーバ、以前も披露しまして、わたしのお気に入りなんですが。

原作から集めた麗しい薪さんが次々入れ替わるという、しかもマイベスト薪さんしか集めてないからマイベスト薪さんしか流れてこないという、もうなんかいろいろやめたくなる困ったしろものなんですけれども。

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これ見てるとしみじみ、原作の薪さんて男らしいなあと思うんですよ。

それで、青木なんか(←)に抱かれていいように感情を翻弄されている薪さんを書いたりしてるのを、大変申し訳なく思ってしまうのであります。

だからってやめられませんごめんなさい。それにあれ……「抱かれて いいように感情を翻弄されてる」ってそこだけ読むと実は原作もそうじゃんね、と思ったり……

 

で、申し訳ないので、ときどき思い出したように、マジメな話を書きたい、という衝動に駆られます。駆られますが、マジメな話を書くと、ほぼもれなく薪さんが地味につらい思いをすることになってしまい、そんなつもりじゃなかったごめんね薪さん、となってしまうわけです。

直近のメロディの、「だれのせいだ」のあとのつらそうな薪さんの顔なんか、ほんとはもう見たくないのよ……苦しんでるときほどお美しいけど

 

やっぱここは鈴木さんの出番でしょう。

勢いで書いた改元ネタ第二弾、鈴薪編。教養学部2年生になったばかりの4月頭。でも改元はほとんど関係ありません。

改元が関係ある改元ネタ1個め:S S「古今(ここん)の桜」

 

先週職場で改元に伴うメンテ不足のせいで書類が送れなかったことと、先日ブラックホールが史上初めて撮影されたこと、連休が長いこと、いろいろ混ぜました。ついでに本日4月12日は東大の入学式だそうなので、それも捏造しました。

頭よくて仲良しのふたりを書きたかっただけ、中身のない会話をしています。会話中のコロンビア大学とは、1年生の夏に薪さんが招聘されて特別講義をしに行ったときに、スライド作成要員として鈴木さんを連れっていった、という別の話をさしています。冒頭の場面は新装版12巻末の仲良しイラストのイメージです。

わたしの書くものにしてはすごく短いほうではないのですが、あまりに趣味に走りすぎたうえに山なし落ちなし意味なしという原初の意味でのやおいになったので、こちらに失礼します。

 

なおうちの鈴薪は付き合っておらず恋愛感情もありません。ただ単にお互いに大好きすぎて大切すぎて命をかけてしまうだけです。もう恋愛感情の入る余地すらないとも言える。

※ 青木をさんざんディスってますがオリエは青薪推奨です 一応……

 

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琥珀色の春休み

 

 薪がイライラしながらメッセージを送信しまくっているのを鈴木が見とがめた。ソファのせもたれ側から腕を伸ばして、背中越しに薪の耳から赤いコードのイヤホンをはずし、自分も片方だけはずす。

 「つよしくん、落ち着きなさい」

 「学校のポータルにアクセスできない」

 「ロシアのDoS攻撃じゃないのか」

 「東大がそんなことでいいのか」

 「叡智の砦として問題あるな」

 「インターネットエクスプローラ経由ならアップロードできます、だと。いまどきブラウザを選ぶシステムなんてどうかしてる。しかも先月はできたのに」

 「半端に通じてるなら、メンテしてる業者の責任だろ」

 「僕もそう言ってやった」

 「さっさとなおせ」

 「僕もそう言ってやった」

 「おまえの機嫌だよ」

 薪のMacBookを覗き込む。「ところでおまえ何やってんの」

 いつも何にでも即答する薪が、んー、と唸って答えない。聞こえなかったのかと思ってもう一度尋ねた。

 「何してんの」

 「鈴木、おまえさ。去年、入学式、出た?」

 「あ?」

 「なんかやらされた?」

 「――おまえが来なかったから」

 鈴木はあまり愉快でなかったことを思い出した。「総代の代わりだって言われて、5分で考えた誓いの言葉を壇上で言わされた」

 「なんでだろうな。理Ⅲのやつにやらせればすんだだろうに」

 「おまえが史上最高点だったからだよ」

 「だからっておまえが全学2位だったわけじゃないだろ」

 「知るか。めんどくさいなら理Ⅲよりいい成績なんか取るな。それかちゃんと入学式に来い」

 薪は相変わらず引っかかるポイントがずれている、と思いながら、鈴木はなおも畳み掛けた。「だからおまえ何やってんだよ」

 「去年入学式の総代のあいさつをすっぽかしたぶんの責任をとれって言われて、来週の入学式でなんかやれって」

 「なんか?」

 「「立派な先輩」からのメッセージとしての、大学のイントロダクションになるような短い講義だそうだ」

 「あー。去年もあったな、20分くらいの学生特別講義。あれ前の年の総代だったのか」

 「すっぽかしたの関係ないのか」

 「そうでも脅さないとおまえは引き受けないと思われたんだよ」

 「何の話してた?」

 「臓器移植と人工生命の話。理Ⅲだろ。おもしろかったぞ」

 鈴木は少し愉快になって、ソファを回り込んで薪の隣に移動した。「なに、おまえあれやらされるの」

 「概要を事前に送れって言われたんでポータル経由でやろうとしてるのに、アップロードできない」

 「何の話」

 「ブラックホールの撮影成功の意義とそれを予言した100年前の理論屋の仕事に、脳内のシナプスの接続性能の上昇についての話を絡めてみようと思ってる」

 「文Ⅰの話とは思えんな」

 「なんでもいいって言うから」

 そこへメッセージが割り込んできた。「「元号変更の影響」……」

 「あれだな、前世紀の終わりに大騒ぎしたっていう、2000年問題。それと同じだろ」

 「業者、バカじゃないのか。前回元号が変わったのなんかほんの四半世紀前だろう。学習してないのか」

 「でもなおったらしいぞ。もう一回あげてみろ」

 送るべきものは今度は送れた。

 「送信するだけの5秒の作業に、40分も無駄にされた……」

 「まあまあつよしくん。コーヒーでも淹れてやるから」

 立ち上がろうとした鈴木の肩を薪が押さえつけた。

 「ところでかつひろくん」

 「あ……嫌な予感」

 「この20分の講義のスライドの、資料貼りを手伝ってほしいんだが」

 「またかよ。おまえ人遣い荒いんだよ」

 「お礼と言ってはなんだけど、今度のゴールデンウイークの改元に伴う10連休に、カリフォルニア旅行をプレゼントしよう」

 薪がモニタから目も上げず、こちらを見もしないで言うので、鈴木はぴんときた。

 「薪」

 「なに」

 「おまえ、また俺に言うの忘れてたな」

 「……ごめん」

 「3週間後だぞ。なんで忘れるんだ」

 「さあ。あんまり一緒にいるから、自分とおまえの区別がつかなくなってるのかも」

 「自――」

 「それで言ったつもりになってるのかも」

 「今度はどこの大学」

 「UCバークレー

 「何の講義」

 「去年おまえに作ってもらったスライド使って、中身はコロンビア大学でやったのとだいたい似た話をするから、準備は少ししかいらない」

 「少し?」

 「追加スライド200枚くらい」

 「あのなあ」

 「でも実はもうほとんど作ってある」

 「だったら俺は何の名目でついていくんだ」

 「去年と同じ。アシスタント」

 「で、渡航費も滞在費も」

 「あっち持ち」

 「なんで俺に聞かないで決めるわけ?」

 「なんか他の用事あったか」

 「ねーよ! けどそういう問題じゃないだろ」

 「どういう問題」

 薪がやっと鈴木の顔を見た。誘ったらどうせ一緒に来るに決まってるのに、伝えるのを忘れたくらいでどうして怒るのか本気でわからない、という顔をしていた。

 鈴木は薪の大きな瞳の琥珀の色に吸い込まれそうな気がした。ブラックホールを覗き込んで史上初めて撮影に成功した人っていうのは、きっとこんな気持ちがしたんだろうな、と思った。

 そうだよな、いくらでもつきあってやる、ずっと一緒にいられる、って言ったのを、こいつはカルガモの刷り込みみたいに真っ正直に信じてついてきてるだけで、言った俺が怒るほうがおかしい。

 「今年は1000枚のスライド作ったりしなくていいんだな」

 鈴木は昨夏ほとんどだまされて手伝わされた画像処理の日々を思いながら確認した。

 「先週まで高校生だったやつら対象の講義だからな。50枚くらいしか使わない」

 「そっちじゃない。バークレーのほう」

 「全然いらない」

 「アシスタントの他の仕事は」

 「荷物持ちと、夕方僕の講義が終わってからの遊び相手」

 「じゃあ行く」

 じゃあもなにも行くんだろ、と鈴木は内心自分で自分に突っ込みながら答えた。「で、入学式は結局去年も今年も、俺がおまえの尻拭いをさせられるわけか」

 「すまん」

 こいつとずっと一緒にいたら、延々とこんなふうなのかもしれない、と鈴木は思った。ごめん言うの忘れてた、でもどうせ一緒に来るだろ、とけろっと言われて、実際ついていく。それでもいいかもしれない。本当にずっと一緒にいられるなら、そんなのもいいかもしれない。

 まずは来週の入学式までに50枚のスライドか。それも、ブラックホールと、相対性理論と、脳みそのシナプスの。

 早速画像をクラウドに上げ始めた薪のモニタを覗き込んで、焦点がどこにあるのかはっきりしない写真の連続に鈴木はめまいがした。

 「俺、文Ⅰなんだけど」

 「僕だってそうだ」

 そうだった、いやでも嘘つけ、脳内は琥珀色の生命科学研究科のくせに、と鈴木は嘆息した。

 

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