土日は若者ズがうちに来ていまして、地味にディープに疲れました。
こちら作業の邪魔をする中猫10か月、里親募集中。
おととい小鳥遊さまからコメントいただいて、そのあと古今和歌集を調べて、これなら書けそうだと思って書いた新元号ネタです。
考えてみたら薪さんと青木が付き合ってる時代には改元はなさそうです。が、そこをちょっと半端ですが無理やりあることにして、すると令和の次の次の元号だな、とそらおそろしくなりました。そんな先のことを不敬にも妄想してしかもピロートークに仕上げたなんて、世間にバレませんように!
相変わらず繊細すぎる薪さんと能天気な青木です。回想の中の秋保温泉は、ピクシブにあげた「早春賦」の宿です。青木が木に積もった雪をみて福岡の桜を思い出したときのことを、ふたりは言っています。
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古今(ここん)の桜
皇族に愛されたという北東北の宿はまだ冬の終わりと呼ぶのがふさわしい季節で、窓の外で吹雪いていた。枕元のスマホが光って、手を伸ばし新着メッセージを確認した青木が、新元号が発表されました、と言った。
「当選者は誰だ」
眠りかけて横向きに丸くなっていた薪が尋ねる。6つあった候補がリークされて、その中に自分たちの名前の漢字がいくつか入っていることを知り、全国八管区の「第九」室長たちが不謹慎なことをしていたのを所長も知っていた。
「宇野さんです」
「古今集か」
目を開けて肘をつき、青木に首を向けて元号の出典をあげた。「前が古事記、その前が万葉集だから、わかりやすいところから持ってきたな」
「わかりやすい?」
「万葉集なんかに比べたら時代がさがってるぶん言葉も平易だし、新古今みたいに技巧的でもない。業平の「絶えて桜のなかりせば」くらいはおまえも知ってるだろ」
「愛し過ぎてつらい、って歌ですね」
薪はつい目を細めた。俺変なこと言いましたか、と反応されて、大昔のプレイボーイの「いっそなければいいのに」という戯れにまさか一瞬で胸が痛んだとは白状できず、おまえがバカじゃなくて安心した、と体を返す。
視界に入った雪景色に、以前青木と泊まった春の秋保を想起した。東京で桜が散り始めるこの時期に、あの日も今日も、逃避行先ではまだ別のものが空を舞っている。
「紀友則も、桜をみて雪と間違えてたぞ」
まるで友人の話をしているかのような物言いに、青木が笑いを漏らしたのが聞こえた。「なんで笑うんだ。おまえも同じようなこと言っただろ」
「俺もそれを思い出してました。もっと情緒不足でしたけど」
背中から抱きついてくる。「あれ以来、桜を見ると雪が目に浮かびます」
「1200年たっても、人間が考えることなんて似てるんだな」
「とものりさんと同じ感性があるなら、誇りにしときます」
いやだいぶ違うけど、と眠りにつこうと目を閉じて、
「桜と雪は違うって主張してるやつもいた」
と薪は呟いた。「「降る雪は白いというただ一点で桜ではない」」
「なんですかそれ」
「短歌だよ。現代歌人の」
「短くないですか」
「続きがあるから」
うっかりした、と黙っていると、案の定先を促された。
「続きって」
「忘れた」
「嘘でしょう。そこまで覚えてるくせに」
「忘れた」
今度は雪を見るたびに最後の句を思い出されたりしたら、あるいは自分がそれを思い出していると意識されたりしたら、たまったものではない。わざとぞんざいに答えて腕を振りほどこうとしたが、逆に抱き寄せられて耳元に吐息を感じた。
「いいです、言わなくて」
こいつ、わかったんだな、だいたいのところが、と薪は内心舌打ちした。まあいい、「青」の字が使われなかったから、残念賞ということにしてやる。最初の勅撰和歌集の選者だって、まさか1200年後の女性に、違うよ、と反論されるとは予想していなかっただろうし。
み 吉 野 の 山 辺 に さ け る 桜 花 雪 か と の み ぞ あ や ま た れ け る 紀友則
降 る 雪 は 白 い と い う た だ 一 点 で 桜 で は な い 君 に 会 い た い すずき//春//香
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