雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

メロディ2024年2月号 続き

 

続きです。

 

・急に止まる薪さんとぶつかる青木。よい。

しっかし真後ろをついて歩いてるってことですね。顔見えないじゃん(←なんの話だよ)。

・「もしかしたら100人以上」 のちほどのセリフで「合計約140回」って、青木、特捜、ほんとお疲れ……

・で、そこに「死ぬだろ」ってきたので、わたし一瞬、ほんとに意味がわからなくてですね。青木をねぎらうにしては妙だな、と瞬時に思ったんですよ。読解力ないんです、昔から国語の「物語」の登場人物の気持ちとか、まったく理解できない人でした。

秘密民のみなさんがここでいちばん盛り上がってるであろうことは想像に難くないです。わたしはそういうポイントで今回も平常運転でした、ごめんなさい。

・青木の妙な反応で、すぐ理解。いやあの薪さん、100人と一夜にやったとか思ったってことですか。どういう発想なのw爆 しかもなにそのいやそうな顔w ほんっっとに「疲れる」「死ぬ」って思ってるんですね。そして無駄にキリッとした青木! この硬直した2ページ、薪さんのズレっぷりが際立って大変よろしいです。

そのくせ「ヤルとかいうな」って、じゃあなんて言うの! お手本見せてください。

 

お手本1

「ヤルとかいうな」

「あっ すいませんっ なんて言ったらいいですか」

「おまえ、ヤッたことないのか? 言葉くらい自分で考えろ」

 

お手本2

「ヤルとかいうな」

「あっ すいませんっ」

「ちゃんと定義がわかるようにしろ、セックスっていえ」

 

お手本3

「ヤルとかいうな」

「あっ すいませんっ なんて言ったらいいですか」

「………………「抱く」?」

「いやそれがですね、抱いてないんですよ」

「実際に抱いたかどうかの話をしてんじゃないだろっ 語彙を直せって言ってるんだ!」

「ですから、実際100人を抱いたんじゃなくて、って言い直したんです」

混乱する青薪。

 

訂正してお手本4を追加

「ヤルとかいうな」

「あっ すいませんっ なんて言ったらいいですか」

「「性交」っていうちゃんとした語彙があるだろう」

「……「精巧」? 「ちゃんとした」??」

そーだよ薪さんには鈴木とやりあった時の専門用語があったじゃないかあ!

 

 

最初のセリフが楽しくて何回も言わせてしまった。

「悪戯」でもあったけど、薪さんポーカーフェイスですよねこういうとき。生命科学で博士号とってるからな、能面のように無表情で平気に過ごしてそうです。

 

・特捜の結果を薪さんに説明する青木。

この、横とか斜め後ろとかに立って背中の位置に手がくるような姿勢で立つ姿、そろそろ名前をつけてください。「壁ドン」みたいなわかりやすい名前を。

・「予想のはるか上をいく容姿を見て」 ああ〜またかよそういう奴。それだけ容姿について蔑まれてきたのかもしれないけど、前回の言われようは人に面と向かってあんなこと言う妹がおかしいんであって、極めて普通でしょうこの人。まあ他人の選択だ、ここはほっとこう。

それにしてもMRI捜査、プライバシーもへったくれもないな、と改めて実感しました。情報がどこかに流れるわけじゃないから、どっちかっていうと見るほうが大変だとほんとに思う。

・タイミング法 ここで関係ないでしょ……なんで出したんですか先生笑

 ※追加 次回の記事で訂正があります

・「トイレの個室で採取した精子」 ファミレスのトイレで?? おえっ……見た青木もお疲れ……その後ニヤついて席で待ってる早瀬もキモい。これで「あなたは悪くない」とか言えるわけねーだろ。

注入するほうは、早いほうがいいに決まってるから別に変じゃない。

・「生まれていないといい」「自分の父親が殺人犯だと知ったら」 これは子供が生まれることを否定する言葉ではなく、その後の苦しみを思いやる言葉だと理解しましたが、まあ生まれても知らなければ別にいいんじゃないでしょうか。

「あなたは父親じゃない」「僕の父親は死にました」って言ってた薪さん、言ってやった相手が死んだことでその後意識も変わってきたんでしょうね。

 

・再度登場の早瀬の母親、「育ててしまってごめんなさい」「私が殺してあげられなくてごめんなさい」 おまえが異常だよ。これで早瀬が殺人犯になった時に、環境要因がなかったって言えないでしょ、この母親じゃ。

・「今回の犯人は早瀬の子供の犯行」 そうなの? わかったのは、爪から出たDNAが早瀬と親子関係にあるってだけでしょ。早瀬の殺人犯である父親がシャバに出てまた犯行を行ったのかもしれない。これは結局、遺伝説を強化するような嫌なパターンですけど。またそのDNAがハクビシンを拾ったやつかどっかの身長190センチの男のものだとしても、引っ掻かれたってだけで、殺した証拠にはならない。雪子さんは克洋くんと薪さんの捜査にケチつけられて面白くなくて急いだのか、ちょっと詰めが甘いですね。

 

・行動遺伝学 キーワードが並べてあります。

「高い反社会性パーソナリティの遺伝率は80%で遺伝する」 編集さん、もうちょっと日本語をチェックしてください……

・「僕の子供も殺人犯になったら」 2051年から精子提供を開始。

ところで今回の事件の12年前の2057年に、前回のメロディで雪子さんが「第一の犯行から2年も経つ」って言ってたから、素直に考えて早瀬拓也の最初の犯行は2055年。早瀬拓也はまだ殺人を犯していない時から、将来自分が殺人犯になったあとでそれが「血のせい」であり自分のせいでないことを「証明」するための準備をしていたわけです。

早瀬拓也の年齢まとめ:

2030年

早瀬拓也 生まれる

0歳

2042年

猫を惨殺

12歳(小6)

2051年

東大を中退、精子提供開始

21歳

2055年

カルトセレモニー第一の犯行

25歳

2057年7月

南関東連続少女殺人事件 指揮権が「第九」

 

同(3日後)

早瀬拓也 逮捕

27歳

2060年

早瀬拓也 死刑判決

30歳

2069年8月

早瀬拓也 死刑執行

39歳

 

・「違う親で違う環境で僕の子供が育ってそれでも殺人犯になるのならそれはもう「環境」のせいじゃない 「遺伝子」のせい」「10人のうち8人が殺人犯になったら?」 いやならねーよ何十人も殺人犯に!

うーん 行動遺伝学ねぇ、わたしには新しい分野なのでよくわからなくて、とりあえず少し調べて考えて、本もポチっておいた。もうちょっと勉強します。

 

で、まだよくわかってないことを前提に、それでも少し勉強して考えた現時点での感想ですが、いやあのねえ、人文科学では、一般的な例や現象や法則と個別の例というのは、基本的に別のものとして考えるんですよ。例えば、「大人よりも子供のほうが、母語話者並みに外国語が習得できる」という一般的に知られた現象も、すべての人に当てはまるわけではなく、上達には個々人の差が大きい。そして「大人よりも子供のほうが」が仮に正しいとしても、あるひとりの大人が大人だからといって、ある一人の、あるいは全体的な子供よりも、外国語の習得がうまくいかない、とはいえないのです。当たり前ですが。

で、行動遺伝学って、名前だけ聞くといかにも自然科学っぽいけど、これ中身はどう考えても心理学でしょ。人間を研究の対象としてるんだから、いわゆる化学とか物理とかっていう意味での自然科学であるはずがないんですよ。人文科学なんです。だからある法則が発見されたからって、それは常に確率の問題でしかない。「10人のうち8人が」って、思いっきり統計じゃん。

行動遺伝学のこの名称に煽られて、法則のある「(自然)科学」のようにゆるく誤解してる人が割といるように思える、本のレビューとかざっと見回しても。「遺伝子で決まる」って言い切ったら、それただの遺伝子決定論だから。

 

先の「高い反社会性パーソナリティは80%で遺伝する」にしても、こういうの、すごく注意が必要です。これは「10人中8人に遺伝する」という意味ではないからです。

じゃあどういう意味なのかというと、よくわからんのです。これは、わたしが数学や統計やその他もろもろが苦手っていうかできないし、行動遺伝学にしても知らんので、だからよくわからん、というだけの意味ではありません。専門家ならその数字の意味をピシッと決定的に定義できるかというと、できません。そういう数字じゃないのです、人間相手の、統計、というのは。80%という数字は統計的な計算から導き出されているものであり、その簡単な数字の裏には当然、分散とか標準偏差とか、ちょん切れないいろんなものが潜んでいます。数字で区切れないものをいろいろぼんやりとまとめた数字、っていうよくわからない言い方が、たぶん結構合ってる。

 

だいたい、「高い反社会性パーソナリティ」ってどんなの? 「高い」ってどんな程度? 「高い」にも個人差があるんじゃないの? 遺伝してる、ってどの程度のこと言ってんの? 「高い反社会性パーソナリティ」の親の子供が「普通程度の(???)反社会性パーソナリティ」だったとして、その差は数値にどう出すの? 人文科学のファジーさをなめんな。

 

もうちょっとわかりやすいところの例として、ある車種Aの事故率が、他のある車種Bの事故率より、20%高い、としましょう。ここから我々が断言できることは、実はほとんどありません。Aに乗ってるほうがBに乗ってるよりも「事故りやすい」とはいえるかもしれないけれど、「事故る」とはいえません。「20%事故りやすい」と言ってみても、それが具体的にどんな現象として出てくるかはよくわからない。「Aに乗ると、Bに乗ってるときより事故率が20%高い」って、意味わかんなくないですか。20%高いっていうのは何か基準になるものに対してだけれど、そもそも基準がわからない。Bに乗ってて事故らなければそもそもが0%じゃね?ってなるし。

これは例えば保険屋なんかが持ってるデータの、たくさんの車とたくさんのドライバーから出た数値であって、通常はたくさんの事故を比較した結果であり、全体の話なのです。その車に乗ってる個々人のことは別の話なのです。

もっといえば事故ってない車、その保険会社の保険に入ってない車は計算できません(全保険屋がデータを共有して研究してるなら別ですが)。保険屋はたぶん、1社でもじゅうぶん多くの契約があれば、それが全体のサンプルになる、という統計的前提をもって計算してるんだと思いますけれど。

また、統計の結果は過去のデータからきているけれど、それを使って保険料を計算したり自分が事故る確率を考えたりするのは未来のことであって、中身は同じではありません。未来はテクノロジーがだんだん発達していくし、車を運転する人間の年齢層も変わるし、交通事情も変わるし、つまり社会が変動することで、事故の内部に潜む要因が変化するからです。

さらに車種を製造時で決定された要因、つまり遺伝子とすると、誰が運転するか、は変化するから環境要因といえます。ある運転がめっちゃ難しい車Cがあって、これに乗ると高確率で事故るとしても、ドライバーの力量の影響があるから、遺伝子の影響に大きく傾いてる論においても環境要因は無関係とはいえません。

 

以上のように、「高い反社会性パーソナリティは80%で遺伝する」ということが行動遺伝学で言われているとしても、その数字どこから出したんやということ以前に、そもそもが心理学であり統計なので、行動遺伝学の言説そのものが(自然科学のように)絶対的なものではないし、行動遺伝学そのものが遺伝子決定論ではなく、環境要因の影響に言及していますので、早瀬拓也のような「10人のうち8人が」という短絡的な解釈は、まあ言ってみればその短絡性そのものが反社会的だなと思うわけです。

行動遺伝学については、個人的趣味としてもうちょっと勉強してみますが、あまりごちゃごちゃ考える必要もないんでしょうね、ほんとは。ミステリのトリックネタなんだから。今回は個人的に引っ掛かってしまうポイントだったので、ごちゃごちゃ考えてみました。

 

 

最後に柱コメント、原画展に言及してくださるだろうと思ったら、やっぱりそうでした。

清水先生、ありがとうございました。

次回の薪さんはお休みです。そのあいだにきっと巡回展のお知らせが出ることでしょう。