雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

SS「空間の鳥」

 

こんばんは。

仔猫ず、数が多いもんで、4キロ入りのロイカナのベビキャが1か月で3袋無くなりました。

※ロイカナ=ロイヤルカナンという、K9の名を冠しながらなぜかキャットフードも売ってるメーカー。中堅クラス程度に高級な療法食カリカリで知られる。

※ベビキャ=マザー&ベビーキャットという、市販の仔猫用カリカリではもっとも小粒のキャットフード。仔猫が離乳したらうちでは基本的にこれを与える。価格は4キロで5,500円(楽天最安値)とやはり中堅。

 

今日またマラソンで2袋注文するんですけど、マラソンが始まるのを待ってられなくて先日1つ頼んじゃった。常に誰かが下痢してるから猫砂の消費も半端ないし、そして高くなりましたねなにもかも!! 犬猫用品の値上がり具合、えげつないです。数年前と比べるとだいたい1.5倍、ものによっては倍の値段になりました。頑張って稼ぐよオレ。上半期のバイト、終わっちゃったけど。

 

 

あと今日、にんげんの病院でした。1)3年前の病気のやつと、2)去年の病気のやつ。1は再発なし、次はまた1年後です。ありがたや。2は変化というか悪化はなく、次回は3か月後です。

この3年間ずっと、1年ごとに春から夏にかけて大きめの病気をして精神科にも行って、同じ中央病院の4つの診療科に合計1〜3か月ごとに通院してきましたが、今回が今まででいちばん、体調もメンタルの調子も良いです。日々あまり盛り上がってませんが、これが本来のドライなわたしだった。薪さんに堕ちた2019年のテンションがおかしかった。

 

 

というわけで本日も、落ち着きのある鈴薪です。今年はいくつか短歌ものを書いてみたいと思って書きました。

今回のお題はこちら:

靴べらを不法所持しているからってともだちです、恋人以上です   笹井宏之

おお鈴薪やん。って思ったんだよね。

 

靴べらといえばもう10年以上、へたすると20年くらい前になると思いますが、ベルメゾンの贈り物カタログでみかけた立派な靴べらが当時の価格で2万円で、職人芸とか無垢材とかまるで認識もせず、高ぇ!!とびっくりしたことがありました。今回書くに当たってにたようなのないかな、と調べたら、あった。

item.rakuten.co.jp

 

おねだん12,430円。以前みたのよりはずっと安いし、わたしもおとなになったので、高いけどいいものなんだろな、という理解は生まれました。

これね、似てませんか、「空間の鳥」に。

inventory.yokohama.art.museum

 

わたし、現代美術は総じてあまり好きじゃないんですが、たまにこういう自分にとっての「当たり」に出会っちゃうと、たまらんですね。1個家に欲しい。代わりに高い靴べら、買おうかとちょっとだけ本気で思いました。

 

と、いう以上の妄想を踏まえた、今日も勉強すらしてない鈴薪です。荻窪時代、大学1年の夏くらいの、靴べらのおはなし。

 

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空間の鳥

 

 意識は数式に向けたまま、じゃあまた、と言って鈴木が出ていくのを耳で送る。明日学校でな、と答えたかもしれないし、なにも言わなかったかもしれない。モニタを睨んでいくつかのグラフを描いて、ふと部屋が薄暗くなっていたことに気づいた。

 「鈴木?」

 声に出して名前を呼んでから、ああさっき帰ったんだった、とモノクロフィルムの映画さながらのぼんやりとした記憶を引っ張り出した。夕食や鍵のことをなにか言われた気もする。立ち上がって灯りをつけ、廊下や台所や玄関ホールや、と通る場所を順番に明るくしていく。果たしてダイニングテーブルの上では炊飯器が湯気をあげており、その隣には蓋付きの容器に入った惣菜と、ガラスのボウルにサラダもあった。おさんどんしに来たのか、と笑いが漏れる。薪はありがたい山盛りの葉野菜を抱え、つまみながら三和土に下りて引き戸を確認したが、戸締まりはしっかりされていた。合鍵も作ってやったんだった、とくるり屋内のほうを振り返れば、見覚えのない彫刻のような靴べらが框の手前で、それを支える土台のブロックからすっと伸びて立っていた。

 澤村が亡くなって、彼のものはほとんど処分した。この家もまもなく人手に渡る。荷物を減らしているところなのにまた持ち込んだな、とブランクーシが削り出したみたいな木製品を手に取ると、滑らかな曲線がしっとりと手に馴染み、まあいいか、と理系らしい瞬時の判断でそれは存在を許可されることになった。

 「友人」ってのはここまでするものなのか、と命をかけてそれ以上のことをしてくれた事実は完全に別次元とばかりに、羽ばたきそうな目の前の芸術品を見つめた。いや自分で使うためだろう、あいつは無駄に背が高いし、こんな長大な道具でもないと靴を履くのも苦労するんだろう。腰や背中を痛めたりしたら、ただでさえ出禁を言い渡されている親御さんに対する印象がますます悪くなる。転ばぬ先に用意しておくのも悪くない。実際こいつは、杖にも武器にもなりそうだな、と薪はやっと納得して、玄関を守り立つ姿になるように鳥を土台に戻して立ててやった。

 

靴べらを不法所持しているからってともだちです、恋人以上です 笹井宏之『ひとさらい』

 

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