雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

SS「夏の瞳」

 

こんばんは。

鈴木氏の誕生日です。書けると思わんかったな。なにしろいま、これなもんで。

 

地域猫のお世話をしているボランティアグループから預かった、この春生まれた仔猫ずです。全員病気。集団避妊手術、もう2回もしてるのに、今年も16にんも生まれたんですって涙 もうボランティアさんのおうちも、タッグ組んでる保護猫カフェも、みんな満杯でみんな財政難。

この子たちはわたしが出張って素手であっさり捕まえられたので、いまはまだ怒って暴れてるけど、病気が治れば馴れてもらわれていくと思う。

 

少し前にどっかの写真家だか企業だかが「かわいい野良猫写真募集!」っていうとっても迷惑な企画をしてて、保護活動者界隈で炎上してました。

今回の3にんは一般人の目にさらすことをためらうほど、風邪の状態が悪くてひどい顔をしています。野良ってこんなよ、ほんと。「保護されて野良さんでなくなって、新しい家族がみつかって、おうちの中で幸せに暮らしています」っていう「かわいい元・野良猫写真」ならまだ許す。それでもそこにいたる苦労なんか、野良さんを「かわいい」と思ってる輩には通じないだろうけどな。

 

 

さて鈴木の誕生日に戻ります。

実は今回はお見舞いなんです。鈴木の誕生日はこのさい、ついでです。

 

ぽてとすさんの2年前の鈴誕のイラストに、お話をつけさせていただきました。

www.pixiv.net

 

おりたたみのあと、ベタ打ちです。読みやすいほうでどうぞ。

 

* * * * *

 

夏の瞳

 

 

 「なあ。こいつら、薪が育てたら」

 熟練の技で真っ赤な和金を2匹掬い上げた鈴木が、夏の陽光にきらきら光る流線形の姿をしみじみと眺めて言った。

 「長期休みには研究のために数週間家を空けることもあるのに、動物の世話なんかできるか。横浜に持って帰れよ」

 「うちは猫がいるから」

 両親から出禁をくらっているのをいいことに、鈴木は薪が知らない適当な言い訳をした。

 「俺も手伝うからさ」

 「なにを」

 「育てるのを。餌やりを」

 「水をきれいに保つほうが苦労が多い」

 「いいじゃん。それを理由に家に帰るようになる」

 「学問より魚を優先しろっていうのか」

 「学問以外もたまには優先しろって言ってんの」

 鈴木はビニール袋の小さな水槽を薪の頭に載せた。「家の中に生き物がいれば、おまえも簡単に死ねないだろ」

 「――なんだよその理屈……」

 薪は鈴木の飛躍した論理と、突き出された屋台の食べ物と、目の前の光景すべてに呆れた顔をした。

 「金魚の餌やりは簡単だし。一日一回でもいいんだってさ。成長速度が遅くなるだけで、寿命にも影響しない」

 「生命科学の専門家に講釈を垂れるのか」

 「あっハイ。そうでしたすみません」

 頭からおろした淡水魚を目の高さに持ち上げてやると、ゆらゆらゆれる赤いひれが瞳に反射する。見上げた視線の先にはいろいろな夏の景色がある。

 「確かに水棲生物にはちょっと惹かれる」

 「だろ。そうだろ。おまえに似合うと思ったんだ」

 「生命の起源ぽいとこ、あるし」

 「うん、うん」

 「鳴かないし、懐かないし」

 「うん。――うん?」

 「でも、やっぱりいらない」

 空の青。緑の木々。乱反射する液体の中で泳ぐ流体。榛の目が映して混ぜる、夏の色だ。

 「ええ。いい案だと思ったのに」

 「いまはもう、勉強以外にも大切にしてるものはある」

 「そうかな」

 「それに家の中にも、しょっちゅうデカイ生き物がいる」

 「あ。そう」

 鈴木はあっさりと引き下がった。「つまり俺は、金魚を運ぶ前から既にいい働きをしてたってわけね」

 そして通りすがりの小学生に、あげるよ、と赤い宝石を託す。

 「いろんな意味で」

 それはよかった、と鈴木は思った。水中の生き物たちも、より幸せになれる環境に落ち着きそうだった。

 

* * * * *