こんばんは。
今期のラ講、1か月たちました。耳学問では難しかろうと思っていた中国語は、ちゃんとついていってます。学生時代にピンイン(発音)も声調(アクセント)も散々叩き込まれたのが、いまになって奏功しています。
ところで初級の講座は「まいにち」とタイトルについてるので、そういうタイプの外国語学習だと文法の積み上げでやってくんだろうと自動的に思ってしまうんですが、中国語(とドイツ語)はどうもそういう形式ではないようです。今年は。中国語はラジオドラマが展開していて、その中から毎回1フレーズだけ紹介して、深いことは考えずに丸暗記しろ、というのが今期のスタイル。こういうの、向いてない人は向いてないだろうなあ。わたしはただの趣味だから、楽しいですけど。
その中国語で先週、とっても短いフレーズの日がありました。
「今日の丸暗記。「来了」」
来たよ、という意味です。いや〜〜この日の講師陣の説明で思い出したんですが。中国語って、動詞が活用しないんですよ。言われて気づいて、は??? と思いましたね。何度も言うけどフランス語とロシア語の動詞の活用、えげつないよ。
中国語でいちばん難しいのは、ずばり発音です。特に日本人は、なまじ漢字を見ると自動的に読めてしまうため、違う読み、それもピンインと声調を個別に漢字に当てはめて「覚え直す」のがたいへん。少なくともわたしは学生時代にそうだった。音読しようとすると声調に合わせて頭を振ってしまったものでした。
そこができてしまえば、動詞が活用しない中国語の文法、それだけでめちゃ簡単やん。思い出して、がぜんやる気が出てきました。
余談ですが漢字といえば、日本語を学ぶ外国人、大変でしょうねえ。ひらがな46個だけでもアルファベットより多いのに、カタカナも同時にやって、慣れた頃に漢字が出てくる。こいつが常用漢字だけでも2000個を超えるうえに、発音が1文字にひとつじゃないという。音読み・訓読みと通常は少なくとも2種類、よく使う漢字ほどたくさんあって、送り仮名もあって、さらに熟語となると特殊な読みが何個もあるので単語ごと覚えないといけない。想像しただけで泣きたくなりますね。
動詞の人称変化がないのがせめてもの救いかな。とはいえ形容詞も活用するからなあ。
人数こそ1億人超えで多いけれど世界中でこの島国でしか使われてない言語を学ぼうとする方々、ありがたくて頭が下がります。
なおラ講のほうのロシア語は、まだあいさつをやってます。かんたんです。
フランス語は、1週目に朝食、2週目に夕食、3週目で弟が遊びに来るという予告編が流れたあと、4週目は丸一週間かけて復習でした。今期は初級の後半ですでにそこそこのレベルなので、ありがたい。さすがNHK、受講生の気持ちをわかってるやん。
ドイツ語は人称変化が出てきて、既にだいぶ困ってます。そろそろついていけなくなりそうです。悔しいのでがんばります。
今日はその「来了」(lai le、ライラ)を使って、短いものを書きました。全薪さんが塩ですのでご了承を。
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来了
青木の場合
「来ました」
ドアを開けると青木が立っていた。この唐突感、そこにしれっとなんでもないように立つ真っ直ぐな姿勢、それぞれがほんの2週間の間隙の後なのに輝いて見えて、これは屋外の光を奴が玄関口で背負っているせいだ、と理屈をつける。
「何しに」
高揚を押し隠そうと、うっかりいつも通りのぶっきらぼうな物言いになった。「ええええ~」とか「まず最初に「あいしてる」とか言いませんかねェ?」などという戯言を覚悟したのに、
「あなたに会いに」
直情的な宣言と眩しそうな微笑みがきれいでくらくらする。
「来ました」
「そうか」
なんとか無愛想さを崩さず背を向け、それを招き入れる合図にした。
薪の場合
「来たぞ」
空港から電話で連絡したのは、わざわざいらしていただくのも、などという遠慮を引き出さないためだ。
「え? 俺と舞のためにわざわざ?」
不思議そうに驚かれるのも、最近はむしろいらいらする。
僕が拒否すれば家族だ愛だと恥ずかしげもなくその関係性に引きずり込もうとするくせに、こっちが諦めて受け入れようとしてるのに、なんなんだその態度は。
「悪いか」
「いいえ」
だが電話の向こうのニブイ男はやっと状況を察して、ぱあっと声が明るくなった。「いいえ。ありがとうございます」
「邪魔だったか」
「いいえ! いらしてくださるんじゃないかと待ってました」
嘘つけ、と責めたくなったが、勘弁してやる。迎えに来させて狭い空間でふたりきりになってからのほうが、いじめるのは効果的だからな。
鈴木の場合
「薪ーーー。来たぞ」
玄関口で声がする。薪は本を置いて立ち上がると、放置してもどうせ入ってくる友人を儀礼上迎えに出た。
「今日は何を持ってきたんだ」
「それが最初? 遠いところをよく来たな、とかじゃないの」
「毎日隣県から学校に通ってるくせに。なに」
「いちご。まだ季節は終わってない」
「よし。許す」
手土産が神戸牛だったら、帰れと言われたに違いない。鈴木は塩対応の薪の背中に向かって続けた。「さくらんぼもあるんだけど」
ぱたぱたというスリッパの足音が止まる。
「まだ早いだろう」
「お高いお品ですよ」
「もったいない」
もらいものだから、と取り繕おうとした鈴木に薪が腕を伸ばした。「すぐ冷やそう」
そっちかよ、と思ったものの、薪が喜んでいるのがわかったので、鈴木も後ろからまっすぐ冷蔵庫に向かってついていった。
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