こんばんは。
今日は「野獣の日」だそうです。『秘密』、凶悪犯罪ばっかり扱う部署が舞台なのに、野獣っぽい人はひとりもいませんね(そう思ってるの、わたしだけですかね)。
うちのかわいい野獣は、「ぴぃ」となきながら縦格子を抜けて台所に侵入しています。ぎりぎりすぎて苦しいならやめればいいのに。
我々にとっての8月10日は、鈴木さんの命日です。日付変わってすぐ、朝刊に間に合うほどすぐだったのでほぼ9日ですけど。
何度も言いますが貝沼が逮捕されたのは2059年の8月なので、勾留や自殺してからの検死→脳の取り出し、などの事務的?手続きを考えても、奴の脳がMRI捜査にかけられてから鈴木さんが亡くなるまでは、ほんの数日なんですよね。なんかこういう、フィクションの中である時期の時間が伸ばされる現象、名前がついてなかったっけ。
とにかく今年も書きました、夏の鈴薪の話です。
いつもどおり、ただ並んでしゃべってるだけ。ちょっと誕生日っぽい話になったかな。
今回は短歌をお題にしたのではなく、書いてる途中で東さんの短歌とつながったのですが、そのお気に入りの短歌も最後にあげてあります。
北東北はもうスズムシが鳴いてます。夜は窓開けたままでは涼しすぎて無理。お盆が過ぎるともうまもなく床暖オンだし、ああ〜夏が終わるよ〜〜。今年も短かったなあ、暑かったのは体感で一週間ぐらいでした。
暑い地域のみなさま、おつかれさまです。鈴薪が働いてる頃の夏は、まだめちゃ暑いままでしょうかね。ちょっと過ごしやすい季節のイメージで書きました。
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星もいつか
「夏の大三角って、もっと三角形じゃなかったか」
夜中になっても帰れない超ブラック部署・その名も「第九」を、まさに夜半過ぎに「休憩のために」「ちょっと抜け出し」た室長と副室長は、昼の熱波が引っ込んでさすがに少々過ごしやすくなった空気が沈む、外の螺旋階段に出た。
「もっと三角形、ってなんだよ」
「あんなに二等辺三角形だったかな」
薪が両手の親指と人差し指で山を作り、サイズを測るみたいに腕を伸ばして、仰いだ夜空に重ねた。姿勢を低くしてその小さな頭に並び、片目を瞑って指の枠を一緒に覗き込んだ鈴木は、切り取られた闇にちゃんと三つの一等星を見つけた。
「二等辺ですらないだろ。どっちかっていうと、1対2対ルート3、に近い」
そうかな、という異論を聞き流して、膝と腰を伸ばして立ち上がる。距離が空いたふたりのあいだの空間を夜風が流れた。
「鈴木」
「何歳になった」
「それ聞くの? 同学年なのに」
「僕たち、出会って何年になった」
確認させたかったのか、と頭の中で年齢から18を引いた。
「けっこう経ったな」
「がむしゃらに走り続けてきたけど。よくやってるよな」
「うん、えらい、よくやってる。びっくりするほど俺たちをこきつかってる」
「すまないと思ってる」
「いまさらなに言ってんだ」
深夜料金も公費の人件費も、もうずいぶん積もり積もった。それは「第九」の創世の歴史であり、ふたりで築いてきた関係の歴史だった。
「こんな働き方じゃ、まともに結婚なんて当分できないな」
「え。なにつよしくん、家庭を持つ気になったの」
「僕じゃない。おまえの心配をしてるんだ」
「なんで」
「雪子さんはいずれ結婚したがるだろう」
「そうだな」
「他人事みたいに。ちゃんと真剣に考えろよ」
「考えてるよ。考えてるし、おまえとだってずっと一緒にいる」
「――」
「いまさらそんな形式にこだわらなくたって。星もいつかは壊れるんだぞ」
薪の呆れたような沈黙にも、鈴木の瞳は平気で空を見ていた。「あれが正三角形だった時代があったかもしれないだろ」
「そんなもの、ない」
「宇宙のどこかほかの場所からは、そう見えるかもしれないだろ」
「見えたらどうだっていうんだ」
「21世紀も半分過ぎてるのに、おまえ自身がなにもかも破格のくせに、俺に普通の人生を要求するのはやめろ」
「僕は別に――」
「「第九」は俺たちふたりが中心になって、一緒に作ってきたんだ。ひとりで背負おうとするなよ」
科警研の内部に作られたこの比較的新しい部署は、凶悪事件のグロテスクな映像ばかりを扱う。上野と豊村は長く続けられないだろう。むしろあのふたりはそれゆえに安心だ、限界が来たらやめられる。いっぽう薪は、学生時代から研究に協力して築き上げてきたこの場所を去ることはできないはずだ。薪にとってここは「居場所」であり、人生をかけて暴いた謎の、次の章だから。
「ずっと一緒にいる」
「おまえさあ」
薪が呆れたような声を出した。「「第九」は順調にいけばいずれ全国展開するし、僕たちはその各管区の中心になるんだぞ」
「ずっと、一緒にいる」
「……」
「友人なら、ずっと一緒にいられる」
「勝手にしろ」
「おまえは俺と、一緒にいてくれないの」
「雪子さんが怖い」
「はは」
鈴木はどこまでも現実的な室長の横顔の輪郭を見た。闇に浮かび上がる地上の星座のようだった。
「仕事に戻るか」
「仮眠室じゃなくて、ちゃんと泊まる部屋があればいいのに」
「おまえ、そしたらここに住んで全生活が仕事になるな」
薪の瞳孔が星の雫を集めて反射し、まつ毛がそれを梳いた。目もとからこぼれ落ちた天の川が頬の上を流れて輝いていた。俺の最重要任務はこいつを休ませることだな、と鈴木は思った。やがて夏の大三角が正多角形になるまで、あるいはいつか星が壊れるまでは。
そんなこと気にしなくてもいいですよ星もいつかは壊れますから 東直子
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