こんばんは。
きれいな月蝕だったらしいですね。こちらは連日の雨がちょっとやんだと思ったら見事に曇り空で、金星も火星もすぐに見えなくなりました。
青薪も「見えなくても月はきれいだ/です」とか言い合ったことでしょう(←雑)。
こちらは2014年の皆既月食。古いデジカメでよく撮った。
今年の秋は暖かいとはいえ(※ よそはどうかわかりませんが北東北はかなり暖かいです、ありがたいことに)、だいぶ寒くなってまいりました。夜は現在、かろうじてマイナスになってない程度です。
猫屋敷もエアコンと床暖の温度を上げました。そろそろウインドウラジエーターを稼働させて買い足します。今年は暖房費がさらにあがりそうです、去年はボーナスが全部それに消えてかつ赤字でした。こわい。
寝室も、だいぶ前にシーツを冬物のあたたかいやつに替えました。猫さまズも喜んでくれています。
そのときにそれ(=シーツの衣替え)をネタに書いてまとまらなくて、そのあと書き足して直してもまとまらなくて悶々としてたおはなしがあったんですが、今般削ってみたらなんとかマシになった、気がする。っていうか推敲しながらあんまり何回も読んだもので、なにが気に入らないのかもわからなくなってきました。
あんまり深いことは考えてない(けどそれで正解を出す)いつもの青木と、ごちゃごちゃめんどくさいことを考えてるいつもの薪さんです。
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巣をつくる
シャワーをすませるといつも、パジャマのボタンをきっちり止めて青木の待つ寝室に入る。どうせすぐ脱がされるとしても、薪はそれを自分なりのたしなみと心得ていた。ちょっとしただらしなさを内包した奔放さはかわいげの範疇に入るが、流されてふたりの関係をだらけたものにしたくなかった。
その夜はそうした、覚悟と呼ぶには大袈裟な薪の気構えがいったん空振りになった。青木は既にベッドに潜り込んで、気持ちよさげな顔で深く呼吸していた。
「おい」
「あ」
寝てしまったのかと小突けばすぐに瞼を開ける。「すみません。あんまり気持ちよくて」
「疲れてるんじゃないのか」
「いえ、シーツを冬物に替えてくださったでしょ」
さらりとした片面パイルの夏のシーツが、冬のフランネルのファーケットに替わったことを指しているのだ。もちろん誂えたのは薪であり、フラットシーツでマットレスをくるみ、肌に触れる掛け布団側に同じものをもう一枚広げて、と大物と格闘したのは青木を迎えるための準備だった。呆け気味の安心しきった顔を見るのも好きだし、待ち時間に寝落ちするほど気に入ったなら家主冥利に尽きる。とはいえ恋人としての立場ではまるで放置されたようで、それほど素直に喜べない。
「ここのベッド、巨大で、セッティングが大変だったろうなと思って」
「確かに手間だけど、」
「あ、違いますよ、このまま眠っちゃうつもりはきっぱりないです。ご安心ください」
「――」
「ただその、あなたが一生懸命整えてくださったものを、俺のせいですぐ駄目にするのが申し訳ないと」
「――」
黒い瞳孔の表面に反射する小柄な姿勢が、タリアセンのランダムな光に照らされてはっきりと見える。戸惑い気味で自信のなさそうなぼんやりとした輪郭が、闇との境目をなくして佇んでいる。
こいつ、いつのまにこんな余裕ぶった態度を持てるようになったんだろう。夜を迎えるたびに僕がいまだに、甘い期待と、わずかながら申し訳ないほどの緊張を抱えて、ここに立ってるっていうのに。バスルームの鏡の姿を青木の目に映る写像に変換して、このからだのなにをあんなに、飽きもせず褒めて讃えて愛するんだろうと、ぜんぜん内面化できないっていうのに。
タイミングを見失って立ち尽くすと手をとられた。
「寒くなりましたね」
「……うん」
「ふんわりしてすごく暖かいですよ」
「知ってる」
「あなたがぐるぐる巻きになりながら巣づくりしてるところを想像して、じんとしました」
「いろいろ間違ってる。絵ヅラも、感想も」
「来てください。冷えないうちに」
青木がからだを返して位置をずらした。眼鏡を外したつぶらなまなざしが潤んでいる。前襟がはだけて覗く鎖骨が美しくて、心臓の鼓動を悟られそうだ。向かい合わせに隣にもぐりこむと、額をくっつけてきた。視線を見つめたまま逃げ道を塞ぐ、常套手段だ。
鎧のようなボタンを長い指がはずした。肌を直接滑ってきた手で背中の中心をなぞられて肩を捻った。触れた箇所を心地よいしびれが広がって、他の誰にも与えられたことのない快感に変わっていく。流されてだらけたくなかったはずなのに、入ってしまったこのやわらかい巣で体温を分け合って、二度と出ていけなくなりそうだ。
「ふんわりしてすごく温かいです。あなたも」
「だからいろいろ、――」
口を出かけた苦情は止まった息に抑えられた。あっという間に立場をとられるのがまだ悔しくて、一瞬でも先に寝てたくせに、と言いたくなったが、堪えた。そもそも洗濯に奔走するのは青木だし、その察しのよさを発揮してちゃんと、自分のせいにしてくれたから。
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