雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

SS「ザ・ワールド」

 

夾竹桃かも、と思っていた10巻表紙のお花、よそさまがシャリンバイと言ってるのを見かけたのでググったら、確かに車輪梅でした。すごい。

花とか植物とかわかる人、すごいといつも思う。まず識別ができないです。わたしは人の顔も見分けられないというかどっちかっていうと同定できないので(←本気で障害じゃないかと思う)、画像認識にバグがあるんだろうな。

花は絵になると大きさとか高さとかもはっきりしなくなるし、ますます難しいです。わかる人、どうやってわかってるんでしょう。農家の娘としてできもしないことを恥じる気持ちがあるので、知恵を貸して欲しいほど。

 

 

さてその10巻表紙、妖精だと各所で騒がれていましたが、そこからくだらないおはなしを書きました。

何度でも見たい書影、再掲。

 

まもなくメロディですので、しょっぱなから打ちのめされて「もう何も書けん」(←そんなこと思ったこと、まだないけど)とか、薪さんがカッコよすぎてあるいはしんどすぎて「バカなことばっか書いててほんとすみません」とかなる前に、速攻であげておきます。

 

参考資料:

ジャン・ピエール・ポルナレフの台詞をご存知ない方はごらんください、と思ったけど、見るとたぶんもっと混乱する。要は、今回これを利用しました、ということです。

dic.nicovideo.jp

 

タイトルもジョジョからいただきました。意味はあまりないです。薪さんの必殺技で時間が止まったとでも思っといてください。

 

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ザ・ワールド

 

 

 俺は私立探偵。はっきり言って腕はいい。それでも漫画やアニメみたいに危険な犯人相手にスリリングに闘うなんてことはなくて、通常の仕事は人探しと浮気調査だ。地味そうに見えても、知恵とコネと体を使ってひとの人生を変える事実を掴んでくる作業だから、動くときは慎重になる。

 人間の裏側ばかり見てきた経験上、ちょっとくらい特異なことには驚かなくなった。だけど今日は「ちょっと」のレベルを超えたものを目にしてしまった。ありのまま今起こったことを話すぜ。

 『浮気調査をしていたら、妖精を見つけた』

 何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何を見たのかわからなかった。

 ポジションはいつもどおり、ターゲットがいちゃつく公園を超望遠レンズで見張れるマンションの外階段。通報されないようにレイドジャケットならぬ「探偵です」と背中に書かれた怪しいパーカーを着て、カメラをのぞいていた。対象者が座ったベンチの後ろに白い花の茂みがあり、そこが揺れて植物画から浮かび上がるみたいにその影は出てきた。

 俺が見張っていた不倫デートのふたりは、背後に急に現れた人物にびっくりして飛び上がった。逃げ去ったふたりのほうを追うべきだったのに、俺は視界に入ったまったく無関係なその姿に目が釘付けになって、正直その瞬間は仕事なんかどうでもよくなった。

 白い肌に落ちた葉影が生々しい。色素の薄い瞳が拡大した遠距離のレンズでもよくわかる。ありえないほどの美人のうえに、透けるようなシャツはボタンが4つくらい開いてる。言っとくけど色香に惑わされて調査を途中放棄したわけじゃない。俺がカメラを動かせなくなったのは、小さな頭の後ろからデカイ男が続いて出てきたせいだ。

 そいつははずしたネクタイを肩にかけていた。名前を呼んだらしく、手前の人物が振り返った。向かい合って立つと、さっき逃げ出した対象、さらには手前のベンチとの比較から、大きいほうは190センチはあるな。なにか少し言い合う様子が見えて、大男が向かいの首筋に手を伸ばした。わ、まさか目の前で絞殺か、なんでわざわざ茂みを出てきてやるんだ、と息を詰めると、そいつの指は栗色に光って見える髪の中に侵入し頭ごと引き寄せ、嬉しいことに予想をはずして、キスをした。

 おいおいたったいま揉めてなかったか、と凝視する俺の視界で、そいつらは舌をからめながら互いのボタンをとめている。はーん、そういうことか。妖精さん、ずいぶんまぶしく輝いて色気がダダ漏れだと思ったら。

 実際、証拠写真ばっかり撮ってる俺からしたら、その構図は芸術的すぎて直視できないほど美しかった。それで思わずシャッターを切ったんだけど、ほんとに恐ろしいことはそのあとに起こったんだ。

 頭がどうにかなりそうだった、直感とか気配とかそんなチャチなもんじゃあ断じてない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。

 妖精は腕を相手の背中に回して抱き寄せ、うっとりと胸に顔を伏せた。年齢も性別もわかるんだかわからないんだか、とにかく人外ぶりがすさまじかった。それだけでもじゅうぶんUMAだったのに、その人はわずかに首をかしげて、ウインクしたんだ。遠くからのぞいてた俺に。

 

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