こんばんは。
次のリレー小説が始まりました、ゆりさん企画をありがとうございます!
とりあえずこれ書いてる時点で現在進行形ですので、ツリーを追ってお楽しみください。
アンケートのご協力ありがとうございました!
— ゆり (@yumenoarika0128) 2021年4月3日
さて、第二回リレー小説はじめます🥳
今回は「過去にタイムスリップした青木さんが学生鈴薪に出会いなんやかやあってまきさんが究極の選択を強いられる」が、一応の大筋です。
が、とにかく鈴薪蜜月時代に新人捜査官の青木さんを送り込んだら→
異次元設定感がすごいw(いや実際そうなんだけど) これ、自分ひとりだったら絶対書けない。
青木は新人だからムニャムニャ、鈴薪は学生だから鈴木はムニャムニャ、といろいろ思うところはあってすでに勝手に胸を痛めているのですが(←自分だけの発想だどどうしてもせつない展開になる)、先行きを制限しないように黙っときます。
前回はすごい超特急で進みましたが、いろんな方がちょっとずつ参加してくださってゆるゆる進んだら楽しいな。
さて、そのかたわらでひっそりと前作のキス祭りを仕上げてしまいます。オリエ イチオシの宇野さんの登場です。
ついったでゆりさんがおっしゃってた「みんな」っていうのはついったらーの我々のことで、わたしもそれはわかってたんですが、ひねってるうちに「第九」メンツの悪巧み、というありえない展開に変換されました。
実際に「第九」のメンバーが薪さん相手にイタズラを仕掛けたりしたら、踏みつけどころか部署を飛ばされると思いますけど。
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祭りの陰
薪の怒鳴り声が聞こえて、曽我が資料室をノックする手を止めて退散した。それが5分ほど前。
「そろそろ誰か、青木を救出しに行けよ」
他力本願な坊主頭がふと呟く。とはいえ曽我が敬語を使わないなら、「誰か」とは宇野か小池のことだ。
「やだよ」
「言い出したおまえが行けよ」
「おれだって嫌だ」
「新人の青木を教育したのはおまえだろ。後輩がかわいそうだと思わないのか」
「思っても、それと薪さんが怖いのは別だ」
曽我はがんとして動こうとしない。
もとより小池は頼りにならないし、今井に至っては企画がうまくいきそうにないと悟って、すでに岡部と仕事の話をしている。宇野はため息をついて立ち上がった。
「大田原牛弁当」
「青木におごらせるのか」
「おまえら、ほんっと冷たいな」
「そうじゃない。薪さんが」
「はいはい、怖いのね」
MITに講演に来た薪を見て、科学者として、捜査員として、その姿に憧れた宇野は、そもそもの立ち位置が他のメンツとは違う。怒った顔が平気なわけではないが、感情まかせに怒鳴っているように見えてその実きちんと筋が通っていることが理系の理屈でわかるので、わりあい冷静に対処できるのだ。
揉める会話が聞こえるようならわざと大きく声をかけようと思ったが、しんとしている室内が心配だった。あの若造にはまだ子供っぽいほどのまっすぐさがあり、そのせいでたまに暴走する。驚きなのは室長がそれに振り回されがちなことだ。ふたりが本気でぶつかったらおおごとになる。宇野はドアノブに手をかけ、音を立てないようにゆっくりと回して、ごく細く開けた隙間から中をのぞいた。
青木しか見えない。俯いた広い背中が微動だにしない。怒りのあまり天の岩戸の向こうに隠れた太陽神を黙ってなだめてるんだろうか、助けが必要かな、と思ってあけた口から出かけた声を抑えるために、息を止める必要があった。
細い、長い指が青木のうなじを撫で、後れ毛をからめた。反対の手の爪が肩に載り、シャツのしわの形が変わった。足元に目を凝らせば、重なったシルエットの向こうに確かに小柄な人影がある。だが目に入った映像を脳がまだ処理しきれず、まさか怒りを原動力に首を締められたりしてるんじゃないだろうな、と宇野の視界が揺れたとき、青木が腕に力を入れて、肩がほんの少し幅を狭めた。
「ん、……」
苦しげに漏れる声に、現実に引き戻される。やるじゃん男前、と一瞬でも思った呑気さはすぐ消し飛んだ。ここで自分の存在を告げたら殺される、しかも死体も残らない完全犯罪で。
宇野は息を止めたまま、自分の機転を内心盛大に褒めると、逆の手順でドアを静かに静かに閉じ、後ずさりして資料室から離れた。
「――生きてるか」
陰から心配そうにそのようすを見ていた曽我が声をかける。
「なんとか」
「青木のことだぞ」
「たぶん」
「なんだよ、たぶんって」
「ちょっとヤバそう」
「ほんとに?」
「なんで助けてこなかったんだよ」
小池も混ざって無責任な発言の合いの手を入れる。
「瀕死の死刑囚を助けて苦しみを伸ばすより、いっそ殺してやる方が慈悲ってこともあるだろう」
「はあ?」
「なに言ってんの、おまえ」
「青木はたぶん、自分の気持ちはわかってないのに、薪さんのことは深層心理でちゃんと理解してるよ」
「そりゃそうだ、いちばんの「室長っ子」だからな」
「だけど深層心理って、どういう意味」
「だから、自分のことはわかってない、ってこと」
同じ部屋でわいわいやっていても、宇野が別格なのはみんなが知っていた。法学は多かれ少なかれ、暗記と解釈のパズルゲームだ。エンジニアで科学者の元アメリカ人と会話で噛み合わないことがあっても、場合によってはスルーする程度の知恵はみんなが身につけている。
ドアの開く音がして、お、と小池が顔を資料室に向けた。
「――普通だな」
腕を同僚のほうに伸ばして指先を擦り合わせる。「無傷で生還する、に賭けたのが俺と今井さん。青木が臨死体験をする、に賭けたのが曽我。宇野は「いいですよ」っつって意外にあっさりほっぺた差し出すんじゃないか、とか言ったよな」
「まだわかんないだろ、無表情で死んでるかも」
そう言いつつも曽我は素直に千円札を出した。宇野も自分がもらえるはずだった金額を考えてため息をつくと、黙って賭け金を小池に渡そうとした。が、
「あ」
「ほらやっぱり、ボディブローでも喰らったんだ」
ふらついた青木が膝を折るのを見て、勝者は死の預言者の曽我となった。
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