雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

SS「透視図」

 

こんばんは。

あちこちから「春だ!」という報告が入ってきてますが、北東北の春はGWからです。最低気温はまだ氷点下です。毎年この時期は、「今年はちゃんと春が来るかな」と心配になるんですよねー(そして6、7月には「今年はちゃんと夏が来るかな」と心配になる、去年は来ませんでした。北東北にデフォで四季は存在しません)。

 

 

さてまたしても勝手にコラボ(?)です、すみません。

きなこさんがついったで「8歳以前の薪さん、いちどは編み図に興味持って編み目記号覚えて編みあみしただろうな」と呟いてらして、わたしは編み物つながり?で「青木が裸の肌にセーターを羽織る後ろ姿を薪さんが見て「あ、セーター…この肩幅」とかキュンとなる夢」を見ました。発想をいただいて断りなく展開してしまいました、ごめんなさい。思いつきの話になったのでこっそり上げます。

 

裸セーターときたら本来は、青木のでっかいやつを薪さんが羽織るのが鉄板ですよね。彼シャツの冬バージョンです。もう春になるのに。絵で見たいです。見たいです。見たいですよね。

が、あの男、ここんとこ過剰な色気がダダ漏れだったじゃないですか。 ※ここんとこ=「悪戯」編の2年間

今回は青木の無自覚なセクシーさがテーマです。寝起きの甘えた薪さんはもう何度か書いてるはずだし、結局編み物は関係なくなってしまったので、なんかいろいろ半端ですけど。

 

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透視図

 

 

 青木が起き上がる気配で目を覚ました。気遣いながらも持ち上がった毛布の隙間に冷えた空気が入り込んだせいだ。

 遮光のカーテンの合わせ目を抜ける朝陽でおおよその時間を知る。ぼうっとした視野に浮かぶ背中を見ていると、床からパジャマの下を取り上げ足を通した長身がベッドの縁に座を据えた。まだ低い温度の気配に一瞬男の首筋が震えて、すでに掴んでいた上を落とし、代わりにセーターを拾った。ゆうべもつれて倒れ込んだときに奪い取り脱がせて、どこぞへ放り投げておいたものだ。

 こういう朝にはたいてい薪が力尽きている。青木は先に起きて風呂とコーヒーと朝食の準備をし、貴重な休日を有意義に過ごすために薪を宥めすかして機嫌を取る。だけどもうしばらくその腕でくるんでいてほしかった、と見つめる後頭部をニットが通って、肩甲骨を滑り下りた。背骨から腰のえくぼまで帷を下ろそうとするカシミヤを遮り、思わず手を伸ばした。

 「あ、起こしちゃいましたか、すみません」

 首だけ振り返って話す小声を無視して両脇から腹に腕を回し、抱き寄せるように自分のからだを近づけた。青木が胴をひねって腕をついたので、服の中にさらに手を入れて胸と肩の厚みを確かめた。

 「寒くないですか」

 「おまえが出ていかなければいい」

 「でももう朝」

 「まだ起きたくない」

 「……脱ぎましょうか」

 「そうじゃなくて」

 6歳だったはずだ、編み図の構成に興味を持って、建築図面に似ていると思ったことがあった。息子の発想を面白がった父親にかぎ針と棒針の使い方を教えられて、武器みたいな道具に悪戦苦闘しながら、小さな手でその教育の成果を証明したのだ。理路整然とした過程は性に合っており、根を詰め黙々と作品をつくり上げるのが楽しかった。

 凝った立体模様が包む肩幅に、大昔のそんな記憶が蘇る。いまさら目を数えて針を動かすつもりは毛頭ないし、秘密を打ち明ければひどく興奮しそうだからそこは内緒だ。ただ、素肌にかぶると襟ぐりが広くて過剰な色気の出る白いセーターの、この眺めをもう少し楽しんでいたいだけだった。

 わかったのかわかっていないのか不明なまま、青木はそれでもいつもと同じく、難解な恋人の瞳を覗き込んでくる。寝室から抜け出すのを中止し、足を引き上げ枕を背中にくつろいだ姿勢をとるようすを、寝具の中から見上げた。

 「いいもの着てるな」

 「ありがとうございます」

 「似合ってる」

 「恋人が買ってくれたんです」

 「へえ?」

 忘れていた、自力で編んだりこそしていなかったが、薪が選んでやったものだった。言われてみれば確かに、リラックスした服装のときに振り撒かれる、強さと若さのアンバランスな凛々しさに輪がかかっている。どうやら自覚しているより、青木のことはよく見ているらしい。

 姿勢を変えて腹を枕にして頬を載せた。ふわふわした山羊の感触がまつ毛を撫でる。呼吸のたびにわずかに上下するぬくみがある。青木全体が柔かい毛玉みたいだと思ったが、いやこいつはからだのどこをとっても固いほうだったよな、と心中を訂正する。拡大して見える毛糸の隆起に、編み図を頭の中で形成した。流れがあって、構造があって、平面と立面を組み合わせて三次元を描き出すような、数字と絵画の合同作業のような、青木の肌を包む透視図を。

 「似合ってる」

 大事なことなので二度言った。だが他にも褒めたいさまざまな語彙は隠しておいた。

 

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