雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

SS「南回帰線」

 

こんばんは。

日本海側ほどではないにしてもこちらも天気の悪い日が続いており、土星木星の最接近は影も見えませんでした。まあ機材とネットの発達してる時代でよかった、土星の輪っかやガリレオ衛星(しかも4つ)まで写ってる写真があちこちで見られました。

ガリレオが見つけたくらいだからそりゃ望遠鏡使えば見えるんだろうけど。

なお電話報告によると連れ合いのいる地域は空はなんとか見える状態だったそうなんですが、仕事が終わって外に出て一生懸命探した時間には既に両惑星とも沈んでいたそうで、「頭きたからあと60年生きて次回見る」とのことでした。

 

見えなかった天体ショーを嘆いてもしかたない。

昨日、12月21日は今年の冬至でした。嬉しい! オラワクワクすっぞ!(=原作を知らないのにパロディでよくみるセリフ) これからは日は長くなるだけ! 既に1週間くらい前から(極寒だったけど)楽しみにしてました。

毎年5月には「ああもうすぐ夏至だあ、夏至が過ぎれば日は短くなるだけだあ」とまだ夏至前なのに気分が沈み始める北東北人ですが、この話を別の人にしたら同じことを感じてる北東北人が複数いたので、わたしだけが悲観主義なわけではないようです。いいんだ、逆に12月には冬至ってだけでもう3月くらいになったような気分になれるから。

ここらへんでは1月半ばから下旬がいちばん寒くなるのが例年なのに、今年は年内最後のメロディを前にして既にマイナス5〜10度の世界です。なおマイナス10度を下回ると窓が開かなくなり、マイナス15度を下回ると寒冷地仕様の車もエンジンがかかりにくくなります。

 

シベリアのノボシビルスクに派遣されていた部下が、マイナス10度の日は「今日めっちゃあったかい!って思う」と言ってました。行きたくないそんなとこ。 ←派遣した張本人

あまりの寒さに(??)、森の中を歩いていると、りすが普通に登ってくるそうです。ぼーっと立ってるにんげんは樹木と同じ扱いです。

 

 

さて寒い話はこれくらいにして、青薪の冬至です。前回に続いてしんみりした話になりましたけど、前の晩にはたぶんゆりさんちみたいに仲よく柚子湯とかに入ってあったまって、そのあともっとあったまったはず。

※ 追加情報によると柚子湯のふたりは事後だったそうです……先にあったまってから柚子湯であったまったのね!!

 

* * * * *

南回帰線

 

 

 窓の外に東京の西の空を見ていた青木が、腕の時計とその風景のあいだに何度か視線を行き来させて、俺の勘違いだと思うんですが、と前置きした。

 「前回来たときより、日没が遅くなった気がします」

 「気のせいだ」

 「福岡と比べるから混乱して、そう思うんですよね、きっと」

 コーヒーを皿に置いて、薪は立ち上がると流しからコップに水を入れて持ってきた。

 「同じ一日でも福岡は東京より40分以上も日の入りが遅い。おまえが前回ここにいたのは11月の末だから、あの日と比較して冬至の今日のほうがここの日の入りは4分遅い。40分も「時差」があるところから来たおまえが、3週間ぶりのその10分の1の違いを知覚できるとは思えない。だから気のせいだって言ったんだ」

 青木は水でガラステーブルの上にいくつかの図形を描き始めた恋人の指先を見つめながら、今の言葉の意味を理解しようとした。

 「つまり、ほんとに日の入りは遅くなってるんですか」

 「うん」

 「でも冬至は今日でしょう」

 「冬至が何の日か知ってるか」

 「一年で一番昼の長さが短い日です」

 「日の入りが一番早い日、ってわけじゃない」

 「――そうなんですか?」

 テーブルには地球と太陽、正弦波、歪んだ数字の8の字があった。

 「地軸が傾いてるから、太陽の高さは毎日変わる。太陽を回る軌道が楕円だから、地球の公転スピードも少しずつ変わる。1日が24時間なのは近似値だから、時計が示す時間と空の様子には誤差が出る。だから日の入りが一番遅い日と昼の長さが一番短い日がずれるんだ。ついでに日の出が一番遅い日も」

 薪は青木の腕を取ると、金属のベルトを回して文字盤を読んだ。「詳しく教えてやってもいいけど、時間切れだな」

 そして水絵を撫でるように消した。

 「まだ大丈夫ですよ」

 「ちゃんとまとめようとすれば簡単な理屈じゃない」

 「まだ大丈夫です」

 「最後の一秒までぎりぎり惜しむような帰り方はするな」

 冬の夕闇に喚起された寂しさがその言葉の中に感じられたので、青木は食い下がることができなかった。

 「今日は羽田まで送っていく」

 「そんなお手間は……」

 「僕が行きたいんだ」

 青木を諫めたばかりの言葉を否定するような自分の行動に、薪が少し顔を伏せた。「空港のバーで一杯やろう」

 「だったらここでも」

 「だから、そしたらおまえ、帰れなくなるだろ」

 すっと立ち上がった小柄なからだは、出ていかなければならない男よりよほど潔い。「明日からは、日は長くなるだけなんだから」

 「……そうですね」

 太陽だってここから回帰する。季節は巡るだけなのに、冬の夜の長さに惑わされてセンチメンタルになるようでは情けない。これが最後の逢瀬ってわけじゃないのに、

 「薪さん」

 青木はコートを取りに行こうとした細い手首を掴んだ。引き倒すように腕の中に抱き入れた。でも年内は今日が最後だろうな、と気付いてしまえば寂しくなる。最後の一秒を惜しむように指をからめて、それからふたりで部屋を出た。

 

* * * * *

 

ということで、実は日の入りは12月のはじめ頃から既にだんだん遅くなってるんですね。日の出が遅くてもそこはあまり関係ない生活をしてるので、日が沈むのが遅くなるとそれだけで嬉しい。

今年の実際の日の入り時刻の、そこだけまとめた調査結果は以下のとおりです。

 

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日の入りは、東京と福岡で42〜43分も違う。国内時差がないからこういう差が大きく感じられます。