雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

SS「1004.7 hPa」

 

今日は秘密界に体調不良の方が多くて。

かくいうわたしも、ゆうべからの頭痛はもしかして気圧のせいかと思い当たりました。

「頭痛予報」とかしてるサイトもけっこうあるようです。

 

で、なんでも薪変換するのが常の我々(←おまえと一緒にすんな、と言われたってみんな似たようなことしてるのは知ってんですよふふふ)、低気圧による頭痛まで薪さんにかぶせて(すみませんごめんなさい)妄想してました。

 

くわえて追加点がこちら。ゆりさんに教えてもらった診断です。

shindanmaker.com

 

薪さん、すごいんですよ。完全にねこなんです。

f:id:orie2027:20201120211620p:plain

 

かわいらしさは文句ないとして、なきごえってなに、なきごえって。

そこに興奮したナカーマが、今夜はたくさんいました。

 

で、そこに興奮したんだからそこ書けばと思うものの、昼から不調をネタに始めてた妄想なので、色っぽい展開はおあずけというか次回というかよその方にというかまわしてしまって、低気圧をテーマにおはなしを書きましたすみません。

症状とかは適当です。薪さんには、すぐ落ち着く展開を目指しつつ、お美しく適度に苦しんでいただきましたごめんなさい。

 

おととい無気力で書けないって騒いだばかりですが、やっぱりここで騒ぐと書けるんだなあ。これも薪さん効果ですかね。

清水先生ありがとうございます……🙏

 

* * * * *

 

1004.7 hPa

 

 

 ソファの上で文字の種類もわからない言語のハードカバーをゆっくりめくりながら休んでいたと思っていたからだが、十分、十五分と経過して徐々に崩れた。青木がキッチンの中から顔をあげたのは、本の落ちるどさりという音を聞きとがめたせいだった。

 「薪さん?」

 「……ん」

 朝から微妙に機嫌が悪げなのには気付いていたが、疲れが理由だと思っていた。だからゆうべは手加減したつもりだけど、ってそうじゃなくて。

 「気分でも悪いんですか」

 「少し」

 「どんなふうに」

 「くらくらする」

 夕食の仕込みの手を止めてカウンターを回ると、ソファの前に跪いて前掛けで拭いた冷えた甲を額に当てた。熱はないようだが顔はいつもに増して青白い。

 「ベッドで休みますか」

 「むり。動きたくない」

 「俺が運びますから」

 横になった肩の下に腕を差し入れようとしたとたん、細く高い猫のような悲鳴をあげて薪が暴れた。

 「やだやだやだ」

 「え、どこか痛いんですか」

 「痛くないけど。触るな」

 「なにもしませんよ」

 「なに言ってんだバカ、触るなってば」

 子供のように喚いて振り回される手脚が力を失うまで待ち、目を閉じたままぐったりと横たわる頬を指の背でそっと撫でた。眉がぴくりとしかめられる。

 「触るなってば……」

 「こういうの、たまにあるんですか」

 「人生で3回目だ。子供の頃と――学生時代と」

 「疲労に、風邪気味の体調に、低気圧が重なったせいでしょう」

 「分析されなくてもわかってる」

 だが薪は青木が自分の状態を冷静に見抜いたことで、いくぶん落ち着きを取り戻したようだった。寝返りを打ってからだを上に向けると、額の髪をあげた大きな手のひらに対して強く抵抗しなくなった。

 「それに寝不足も」

 「おまえのせいだろうが」

 だけどゆうべは手加減を、と機嫌の悪いところに言い募ったらますます怒らせるので、そこは黙っておく。

 「前回はどうしたんですか」

 「毛布3枚かぶって、ひたすら我慢して寝た」

 「ご自分で寝室まで行かれます?」

 「ここにいる」

 「もっと静かで薄暗い場所で休んだほうが」

 「ここにいるって言ってるだろ」

 触られてイライラしているくせに、自分からは離れていかない。そういう甘え方をされてしまうと、青木には手の打ちようがない。

 「かぶるものを出してきます」

 「うん。これから体温がもっと下がる」

 「……触ってもいいんですか」

 「なにもしないなら」

 「体調の悪いあなた相手に、悪さなんかしませんよ」

 青木は寝室のクローゼットとリビングを何度か往復し、重めの掛け物を担いで運んだ。薪を抱き寄せて楽な姿勢を整え、苦労して毛布を重ねていく。

 「やっぱり、ベッドのほうが」

 「どうせ肌が苦しくてよく眠れない」

 「この体勢よりいいでしょう」

 「朝まで寝ちゃうぞ」

 「そのためにベッドに行くんですよ」

 「遠路はるばる会いに来て、おまえはいいのか」

 だからそういう甘え方をされたら、猫に仕える忠犬にはまったく勝ち目がない。

 薪が毛布の下の腕の中で唸りながらもぞもぞと姿勢を直して、結局ほとんど上に載って抱かれるかたちでやっと落ち着いた。

 「雨音が弱くなってきた。あと2時間もしたら僕もマシになる」

 「はい」

 「なに作ってたんだ」

 「いい鮭が手に入ったので、イクラと一緒にはらこ飯にして、スープはエリンギと白菜です」

 「少し、眠る」

 「はい」

 どうやらメニューは気に入ったらしい。体温を分けたからだもぬくまってきたし、凛とした白百合のような香りがかすかに戻ってきた。ぴりぴりしていた肌の表面もおさまりつつあるようだ。

 静かな寝息のところどころに、のどを鳴らす音が聞こえる。この人、ほんとに人間なのかな、間違って俺のところにやってきた、美しい魔物なんじゃないかな、と思う。だとしたらいつかどこかに帰ってしまわないように、触るなと言われても従えない。

 青木も目を閉じて少し眠ることにした。ベルベットの重みでやっと普通になった軽いからだが、支える胸に心地よかった。

 

* * * * *