雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

SS「ある猫たちのはなし6」

 

19日、今井さん(猫)と山本さん(猫)がそろってトライアルに行きました。

今井さん(猫)に興味を持った方が我が家まで見学に来て、当初それ以上の予定はなかったのですが、折衝の結果折り返しわたしがふたりを連れて先方宅まで伺い、そのまま急遽トライアルとなったものです。

 

山本猫。からだはデカイけどおとなしめ。トライアル先ではとりあえず引きこもってます。

f:id:orie2027:20200319223603j:plain

 

今井猫。サークルからの脱走も一番早かった元気者。トライアル先でもさっそく探検してました。

f:id:orie2027:20200319223610j:plain

 

 

20日はチーム室長さんズの1歳の誕生日です。このまま全員うちで公的にオトナになるのかと思ってたのに、まさか前日の夜に大どんでん返しがあるとは。

左から、岡部、小池、曽我、今井、宇野と山本(ぜんぶ猫)。

f:id:orie2027:20200319223903j:plain

曽我ちゃん、ごめんね。

 

Two done, three to go. 今夜の岡部猫、宇野猫、小池猫。しっぽ短い組です。

f:id:orie2027:20200319224106j:plain

ひと月半後には全員もらわれていってる……かな?

 

 

1歳記念に曽我猫の話をまた書きました。にんげんの曽我さんが悩んでいます。薪さんでも青木でも鈴木さんでもなく、波多野ちゃんですらなく、曽我さんです。二次界隈広しといえども、曽我のコイバナ(?)なんか書いてるのは日本中でわたしだけだと断言できます。

 

 

* * * * *

 

ある猫たちのはなし6

 

 

 春が近づいて明け方の一番気温が下がる時間帯ですら、取り立てて冷えるという感覚はなくなっている。曽我猫は深夜に掛け布団から這い出して、家主の頭の横で眠るようになった。半端な長さの情けないしっぽの先や、だらしなく投げ出した前脚のまだ柔らかい肉球が、無遠慮に人間の頬を撫でる。

 その朝、曽我育秀はまぶたをくすぐるひげの感覚に諦めて目を開けると、自分と同じ名前の猫を伸び切った姿勢のまま持ち上げて顔の上に載せた。ボランティアに教えられて以来、考え事があるときにやる「猫吸い」の儀式だった。

 今日で曽我猫は1歳になる。その数日後に生後3、4日で、きょうだいまとめて科警研前で拾ってからも間もなく1年になる。所長と青木に助けられて、博士論文執筆の傍ら保護活動をしていた小泉はこべが手伝いに来てくれて、みんな元気にすくすくと育った。5匹のきょうだいはもらわれていき、曽我は曽我猫と一緒に引っ越して、医学博士の院生の就職が決まった。あんなに小さかった多胎児はそうやって無事育ち、世話人なしで留守番させても心配のない大きさになった。

 小泉はこべは明日東京へ引っ越す。時間の都合がつかず慌ただしい前日になってしまったが、今日は昼のうちに外で食事することになっている。青木に入れ知恵されて、今までの活躍への労いと、博士号取得と就職のお祝いをまとめて、ちょっといいところへ誘ったのだ。ランチにしたのも、猫と1ミリも関係のない状況で会うのが初めてだから、警戒されないように、と自分なりに気を遣った結果だった。

 はこべは明日、広島を離れる。将来のある人の邪魔をするな、と後輩に語ったのは曽我の口だった。だいたい彼女はひとまわり以上も年下なのだ。それに新幹線で4時間、飛行機で2時間、そんな距離をどうこなせばいいのか、見当もつかない。

 って俺は何を考えてるんだ、と猫の腹を思い切り吸った。

 『セロトニンオキシトシン、ついでにドーパミンまで分泌されて、リラックスした脳がいいアイデアを引っ張ってくるんですよ』

 だがこの猫ドラッグは今朝の曽我にはどうも効きが悪い。

 「おまえはいいよな。やりたい放題やられ放題ではこべちゃんの顔に載って、しっぽ撫でられてチューされて」

 曽我猫は微動だにせず飼い主の上で惰眠を貪り続けている。

 「おまえが大好きなあの人は、もうこのうちには来ないんだぞ。おまえ、わかってんのか」

 猫を両手で高く持ち上げる。脱力した獣は四つ脚を弛緩させたまま宙に浮いて、この世のあらゆる憂いから遠ざかった姿で眠り続けている。

 「あの人も、もうおまえに会えないのにな。それでいいのかな」

 猫は目を覚まさない。

 曽我は曽我猫をおろして起き上がり、毛皮に頼らずにもう少し考えてみようとベッドを抜け出した。

 

* * * * *