雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

SS「六週目の距離」

連休とか週末とかから連想して、遠距離恋愛について考えてました。

 

ずばりそのものの単語で検索したところ、とあるサイトに次のような情報が。

「関東県内(管理人注:「圏内」の間違いであると思われる)と関西地方 or 九州地方の遠距離の場合、往復の交通費が最低2万円かかってきます。会う頻度は、コンスタントに月1回会えれば高頻度。」

2万で往復できるかよ仙台―東京間(片道350キロ)で往復その値段だぞとか、月イチで高頻度って誰が決めたんだとか、いちいち突っ込む理屈っぽい管理人。

 

でも確かに青薪は仕事も忙しいほうだとしか思えないので、仮に「高頻度」で会ってもせいぜい年10回くらいですよね。えっ そんなにえっち頻度低いの??(すみませんすみません)とたいへんがっかりしたのは事実です。

返す返すも、第九時代にやって 付き合っておかなかったことが悔やまれます。 ←ふたりの気持ちを代弁したつもりの管理人、暴走中 ほんとごめんなさい

 

これで「夜じゅう一緒にいたい」(←ちょっと違う)とか、青木よく言ったよね! しかも薪さんがフランスにいた頃に。

逆かな、フランスにいるってことを考えたら、日本に戻ってきてくれさえすれば、たとえ月一でも一緒にいられる早く帰って来てくださいあなたが好きです、って思ったのかもしれない。

 

 

学生時代のサークルの先輩が、そのサークル活動を通じて隣県の大学の学生と付き合うようになり、毎晩車で峠を超えて会いに行ってました。相手の子はたまたまわたしの高校の同級生だったので双方から情報が入って来たのですが、隣県側からは「毎晩来る、ウザイ」という本音も聞こえてたっけな。

ちなみに峠は冬期間閉鎖されるので、ウザすぎて別れるという危機はそれによって回避されました。

余談ですが先輩は山道でウサギを撥ねたことがあり、翌日埋めに行ってにんじんジュースをお供えしていました。

 

※ そしてそこから突然話がズレますが、わたし猫だけじゃなくて一度だけ、うさぎも保護したことがあるんです(あとカモも)。

こちらは捨てうさぎのうさこさん。2か月の通院ののち、やさしいうさぎ好きのご家族にもらわれていきました。

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なお昨日ゲロった斉藤さん(猫)は、本日ごきげんです。

相変わらず自力で飲み食いしてくれず強制給餌ですが、ふみふみしたり立ち上がったり段ボール巣箱から脱出を試みたり、猫っぽくなりつつあります。

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あっというまに里親の申し込みが4件も。

その申し込み、チーム室長さんズに分けてほしい……。

 

 

本題=遠距離恋愛、に戻ります。

わたしも、週一で会いに来るのが無理なくらいの適度な遠距離がいいタイプです。もっと遠距離でも全然平気ですが、お相手が薪さんなら毎晩でもいいです。寝ないでいらっしゃるのを待ちます。

そんな気持ちだったんですかね、警察署勤務時代の鈴薪(あれ?)。

 

でも昨日車を運転しながら、遠距離恋愛中の青薪(というか薪さん)のことを考えてたら、悲しくなって泣けてきました。 ←いろいろ末期的

多忙すぎて会えないふたりの短いおはなしを書きました。薪さんが青木の働きを慮って電話をくれます。

タイトルは、「星空のディスタンス」とか「恋人たちの距離(ディスタンス)」とかみたいに、カタカナで読んでみたいところです。

 

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六週目の距離

 

 「なにしてた」

 「まだ「第九」にいます」

 第八管区の室長は、疲れを音に出さないように細心の注意を払って科警研所長の電話に答えた。時計の針はもうかなり遅い時間をさしている。深夜に響く薪の声は、それだけで脳を痺れさせるほど甘い。

 「画が出ないのか」

 「出たことは出たんですが。イメージのふちで肝心のものが切れてるんです」

 「そんなんじゃ立件には使えないだろう」

 「それが視線が揺れてるので、飛んだ時間の映像をつなぎ合わせるとどうにかなりそうで」

 その「どうにか」に持ち込むまでがどれほど大変かは、言わなくても伝わるはずだ。あまり事件の話で煩わせたくなかったため、青木は意図的に話を逸らした。

 「家事を任せきりだと母の機嫌が悪くて」

 しまった。

 「舞も手伝ってくれてますが、こうちゃんもっと早く帰ってきてって」

 さらに墓穴を掘った。

 「でも家族を待たせてるのは俺だけじゃありませんし」

 ああもう、これは二重三重の意味でダメ情報だ。

 「早く片付くといいな」

 青木が口を滑らせた言葉を失敗だと思っていることに、あちらが気づかないはずがない。だが電話の向こうの声はいつもどおり平静で、そしてなにより、上司としての青木が第八管区の部下を慮っていちばん時間と労力を犠牲にしていることを理解しているからこそ、やさしかった。

 「おまえは偉いな」

 「……おとなになって褒められるのって、嬉しいですね」

 「それが僕だとなおさらなんだろ」

 「いままであなたにえらいって言われたの、宇野さんくらいですもんね」

 そんなことはないそれはおまえの被害妄想だ、という言葉が、双方の言い分の真偽のほどはともかくとして、薪による青木への評価をわかりにくく物語っていた。

 それじゃ、と電波の向こう側から切られそうになり、その気遣いをさびしく思ってほとんど反射的に引き止めた。

 「それだけですか」

 「ん?」

 「何かもっと――

 「――愛してる、とか?」

 「う」

 そんな不意打ちはずるい、っていうかなんですか今のは、「とか」って例示? 引用? 冗談にするための和らげ記号? あなた5週間も会ってない恋人を追い詰めてからかうようなこと言うと、今度会ったらお仕置きしますよ、じゃなくて泣かせますよ、なんて口に出したら俺のほうがいまここで泣かされるだろうから絶対に言わないけどでも、

 「会いたいな」

 「――…………はい」

でも、どうでもいいですそんなこと。意地悪されたんでも、本音でも、どっちでも同じです。俺、たったいま、元気になっちゃいましたから。

 「青木」

 「はい」

 「おまえ僕に、5週間も会ってないんだぞ」

 「そうでしたっけ」

 「ということは、僕もおまえに5週間会ってないんだ」

 「それは大変申し訳ないです」 

 「あとどれくらいかかるんだ」

 「週半ばには」

 「じゃあ舞に伝言を頼む」

 「なんですか」

 「次の週末は、こうちゃんをマキちゃんに貸してくれ、って」

 薪は返事を待たずに不意に電話を切った。

 あの人も手がかかる。メディアがなんであっても遠距離の会話では絶対に映像を出してくれないし、顔を見せようとしない。まあこういうことがあるからなんだろうけど、と今頃遠い夜空の下でぷりぷりと勝手に恥ずかしがっている人を思い浮かべて、青木はほんの少しだけ、離れていることにも恩恵はあるな、と思った。

 距離がふたりにもたらすせつなさと甘さが、青木の喉を温かいもので塞いだ。夜景の上に浮かぶ部屋でひとりきり、ただ囁き声を聞くためだけにスマホの小さな画面を凝視してコールをためらう薪の姿が、目の奥に白く輝いて見えてぴりぴりとした痺れを感じた。

 愛してる、とか、言えばよかった。先に言われて、ごまかされてしまう前に。

 

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