雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

SS「ほてり」

こんばんは。

ゆうべ岡部さん(猫)に、MacBookの上に飲み物をこぼされました。号泣 だからノート複数必要なんだよ! ←? 

6月に1台電源が入らなくなり、職場で「新しいの買って❤️」って言ったら「去年も買ったでしょ」(それは予算の出た箇所も使用部署も違う)とか「去年あんたが計画した予算費目に入ってない」(故障を予測して予算計画を立てろと??)とか散々総務に文句言われてそれでも長い理由書書いてなんとか書類通して、でもまだブツは届いてないの! 必要だからお願いしてるの! それなのにまたこれかよ……

ええワタシがすべて悪いんです、猫室長さんズ暴れまくってたのにテーブルで仕事してたワタシが。夏の夜中に喉なんか乾いてたワタシが。

 

やはりテーブルで仕事をしてはいけない。

テーブルは猫が寝たり遊んだりするための場所であるから。

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さて傷心のまま、昨日の青薪ソングとは関係ない青薪妄想です。

ずいぶん長いこと色っぽいものを上げていなかった気がします。 気のせいだろう メロディ本誌に満たされてたのかもしれない。

だもんで先日北東北でもついに暑くなった日に妄想した(←バカ)昼間っからいたしてる青薪。 いやだから鈴薪月間じゃないの……?? 

うち周辺が「夏」になるのは年間せいぜい3週間。ゆうべも夜はエアコン切って窓閉めたよ! この短い暑さを堪能して汗だくな話を書かねば、と思ったのに青薪なんしか涼しそう。

頭悪そうなカップルになりましたが中身はたいしたことないです。下僕ポジションの青木が途中から図々しくなります。ってこれもいつものパターンか。

 

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ほてり

 

 こくりと喉がなったのを触れた指で何度か確かめて、唇を離し水をヘッドボードに置く。この時期に特有の心地よい疲労感にとらわれてこれを怠ると、最大の構成要素を失ったからだが危機を訴えていうことをきかなくなる。

 それから青木は大の字と形容するにふさわしい大仰な広がり方で天井を向いた。ほんの数分でエアコンの風が冷たくなった。胸を撫でる空気に寝落ちした場合の危険性を察知し、眠りかけの自我を引き戻してなんとか薄掛けを引っ張り上げる。二の腕に頭を載せていた薪を抱き寄せて、すでに冷え始めた肩をシャツの上からなでさする。唸り声で苦情を出されたが無視した。このままではひどい筋肉痛決定だ、それどころか真夏に凍死するかもしれない、と馬鹿馬鹿しいことを真剣に考えて、布団の中のふたりのからだが温まっていくことにほっとする。

 だが、おまえ熱い、と手足を突っ張って押しのけられた。

 「シャワーを浴びたい」

 「俺もです」

 「湯船に浸かりたい」

 「さっき36度のお湯を張っておきましたから……たぶん今頃冷めていい感じかと」

 「シーツも交換して」

 青木は観念して目を開けた。週末は短い、こんな明るい時間から落ちてしまったらもったいない。とはいえ、首を回して隣の麗人の美しい横顔を見つめると、でもこのまま寝ていたい、とその人のわがままなつぶやきが耳に響く。

 「あとの眠りって気持ちいいよな」

 「抗いがたいです」

 「へたすると」

 そこで言葉が途切れた。

 「なんですか」

 「……」

 「もう――薪さんてば」

 情けない声を出して恋人を抱きしめる。「俺の労力をなかったことにしないでください」

 「バカだな、ことがあってこその事後だろ」

 「そうは聞こえませんでした。証明してもらいます」

 かぶったばかりの上掛けをはいで、額、まぶた、鼻、と好きな部分に順番にキスをする。耳に舌を這わせると、薪がからだをよじって息を漏らした。

 「シーツが冷たい」

 「もう一回濡れてからでも同じです」

 「次はからだが動かなくなる」

 「洗ってあげます」

 「一度いろいろ流したい」

 「俺はこのままでいいです」

 「風呂がこれ以上冷めると――」

 「いいわけを探すのは諦めてください」

 薪の肩を出して脇から臍まで唇で辿りながら下りていく。「今度は全部脱いで」

 「あ……やだ」

 「暑いでしょう」

 「明るすぎる」

 風呂場はもっと明るいのに、と苦情を却下する。

 喋ってみると薪の意識がずいぶんはっきりしているのも気になった。季節に遠慮して手加減したのが仇となったのかもしれない。その証拠に、口では文句を言うものの、いい加減にしろおまえしつこい、と蹴りが飛んできそうな場面でなされるがままになっている。おまけにこの人はよけいなところで考えていることを上手に隠すので、真意を見抜くのが時々ひどく難しい。

 昼間の情事は自堕落で背徳的だ。これほどこの清冽な姿に似合わない語彙もない。ないはずなのに、ほのかに毒を含んだ鈴蘭の香りがして、普段の澄んだ眼差しが一気に妖艶な翳りを帯び、青木の理性を撃ち砕いて突き刺さる。再び急激に温度のあがった大気の波間で、圧力に押しつぶされそうになる。快楽を分け与えることでそれに抵抗し、声を聞いて自分を保つ。隠されたことが露わになれば、今度は見破った秘密に流されないのが困難だった。

 「青木。……」

 何か言われたが聞き流す。ことばより雄弁な愛撫への反射が、薪のからだのあらゆる先端から中心に向かって波としてざわざわと伝わっていくのが、白い太陽光への照り返しとして見える。愛を語らない唇が、心のうちを明かさない瞳が、薄い膜のような吐息と涙で本音をわずかに染み出させる。再び湿り始めた肌が面倒な常識や羞恥心を剥ぎ取っていく。真夏の陽炎の中に白昼夢が浮かんでいるみたいだった。そもそもなんでこんな時間に始めちゃったんだったかな、とはるか昔の思い出のような事象をたどって窓辺に視線を向けると、薄いカーテンを透った夏の日差しが青木の眼鏡のレンズを光らせて、ふたりを笑いながら咎め加減に見ていた。

 

  窓辺にはくちづけのとき外したる眼鏡がありて透ける夏空  吉川宏志

 

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