改元連休、後半戦です。働いてらっしゃる方も、青木の素行に心かき乱されている方も、どちらさまもお疲れさまです。
わたしは引き続き引きこもりです。1年も前にツレから「どこか行く?」と聞かれて、そんな先のこと知るかいつ子猫くるかわからないのに、と「んー」と生返事しておいたら、やつはさっさと他の人と旅行の計画を立ててしまいました。海外なのは確実ですが、いまどこにいるのかもわかりません。薪さんより冷たい。てゆーか薪さんだって青木に(←青木限定か)そんな冷たい仕打ちはしないと思う。
とはいえ子猫の体調が万全でない現状、冷たいツレでよかったと心の底から思っています。管理人は学生時代から「やさしい男の人」が大変苦手でした、薪さんをあいしてしまった理由のひとつもたぶん、あの人がおっかないからです ワタシ忙しいのほっといて、でもって勝手に遊びに行って、と言わずに済んだ。ありがとう。という気分です。
体調が万全でないなりにがんばってる子猫室長さんたち。
宇野さん(猫、左端)もなんとかムースをなめてくれて、カテーテル突っ込まれて入院、という最悪の事態は避けられました。感涙
さてわたしのことはどうでもいいのです。 ←語っておきながら
ホムラひろしショートショート劇場(誤解を招くタイトルですけど他に書きようがありません)。
いつもどおりの注釈ですが、最後に書いてあるものは短歌に見えない短歌です。
ほのぼの学生鈴薪の休日です。
2045年か46年あたり、東大の教養学部時代。前期セメスター。双方まだ二十歳前(うう、もうそれだけで涙出そう)。場所は薪さんちですかね。馴染んでて緊張感のない、仲良しのふたりです。
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アダムたちの果実
休日の気だるい昼下がり、鈴木がたまにやりだす「夢想の質問」をまた薪に投げかけた。
「無人島に絶対持っていきたいものって何がある」
「水」
薪は現実的に即答する。
「あとは」
「本。スマホかiPadかMacBook。wi-fiが通るなら」
「それは無理」
「じゃあ本でいい」
「一冊だけ選ぶとしたら」
薪は寝そべったソファから腕だけ伸ばして、視界の外にいる鈴木に読書中の表紙を向けた。「『知の歴史』」
「おまえ無人島に着く前にそれ読み終わるだろ」
「じゃあ知らない言語で書かれたやたら長い小説と、不可能の文字のない辞書」
「辞書くらいならおまけでつけてもいいか」
「無人島に食べ物はあるのか」
「ある。蜜入り林檎」
「なんだそれ」
薪は笑って起き上がり、ソファの背越しに鈴木に顔を向けた。「一種類しかないならバナナにしとけよ」
「林檎だってある意味完全食品だぞ。エデンの園にあったんだ」
「食べちゃだめなやつだろう」
「そうだったかな」
鈴木はごまかした。「他に」
「地図。磁石」
「無人島に地図があるわけない」
「そうだな。鈴木」
「――なんだよ」
「だから、鈴木」
「?」
「おまえを持っていく」
薪は真顔で鈴木をじっと見ていた。「たぶん無人島でも退屈しない」
「俺は「知らない言語で書かれたやたら長い小説」と同列か」
「光栄に思えよ」
終わりのない本があれば無人島でも退屈しない。枕にもできるし、抱いて寝ることもできる。
薪は鈴木の視界から隠れてソファに再び横になり、知っている言語で書かれた本の休日に戻った。
ぼ ろ ぼ ろ の 地 図・磁 石・水・不 可 能 の 文 字 の な い 辞 書・蜜 入 り 林 檎 HoむらHiろし
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