雑種のひみつの『秘密』

清水玲子先生の『秘密』について、思いの丈を吐露します。

SS「スペシャルティ」

こんばんは。

今日は曜日関係なく何週間ぶりかで、午前中に用事のない日でした。寝床に入ったのこそ朝方でしたけど、自堕落に目覚ましかけないで寝て、自堕落に猫抱いて二度寝して、自堕落に午後になって起きて、自堕落に暗くなってから出勤しました。

 

こちら自堕落に猫にのられて、自堕落に起きられなかったわたし。

見えないところにもまだまだいます。茶色いのは宇野猫です。暑かったー。重かった。 ←秘密界の猫クラスタを羨ましがらせようとしています

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とはいえ11月になってしまいました。

もう今年が終わる。12月は忙しすぎてあってなきがごとしなので、すでに年の瀬も押し迫った気分。

 

メロディ発売直前に『恋する翼』の翌週のおはなしを勢いで書いてよそさまに送りつけたり(……)していたのですが、そのあと手直ししてるうちに方向性違うなと感じてだいぶ書き直して、んでメロディで光がアレだったのでわたしは平気だけど(←鬼畜)秘密界隈の他の方々が沈んでる感じでそういうときに出す話でもないかなと思ったり。

というのは前々回かな、って半年前じゃん! 青木ヒドイとかって騒いだときに、癒しを求めて他の方々の二次を見に支部やブログを放浪したことがあったんですよね。

だもんでその頃の自分の気持ちを思い出し、なんか穏やかな感じのものを放出しようと思いました。

 

青薪にはいつかこういうざわめきのない時間を過ごしてほしい、というわたしの考える「幸せな薪さん」の姿です。

ここんとここだわっていた「寝間着シェア」が出てくる妄想の、たぶんいちばん最初に書いたおはなしです。

 

 

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スペシャルティ

 

 

 寝室まで漂ってきたコーヒーの香りに睡眠の表面を撫でられて、青木はゆっくりとうつつに帰ってくる。なんだかすごくいい夢を見ていた。たった今のことなのにそれが思い出せないのは、現実のこの目覚めのほうがもっといいものだからだ。

 薪の手順は知っている。まず水を火にかけ、お湯が沸くまでのあいだに豆を挽く。寝起きの桜色の指がミルのハンドルをゆっくりと回して、煎りたてで仕入れたグァテマラかコロンビアあたりを砕き、海を越えて運ばれてきたアロマをその中から取り出していく。豆をドリッパーにセットした頃に手筈通り沸騰したやかんから、口の細いポットに移し替えて温度を下げる。そこから蒸らして20秒、あの小さい頭をわずかに傾げて全体がゆっくりと湿るのを待ち、そして続けてそそぎこんだお湯が豆を大きく膨らませるのを、鼻腔を広げて満足そうな顔で眺めるのだ。コーヒーポットにだいたい3杯ぶん、つぎたして落としきらずに切り上げる頃には、爽やかで芳醇なフレーバーがキッチンを超えて流れてくる。

 付き合いはじめの頃、プライベートの薪は朝が弱いと、意外な発見をした気になっていた。だがそれが実は自分の無茶な熱情のせいであることに、青木はほどなく気がついた。出かける用事のある日には、薪は重い体を叱咤して潔く起き上がり、目覚まし薬のコーヒーを淹れる。それを青木にもわけてくれて、ふたつそろったマグカップで、同じ一日を始める。

 青木はベッドを抜け出した。自分のために用意されたインド綿のパジャマを穿いたが、上が見当たらない。静かに寝室を出て行くと、それは薪に取られていた。長すぎる袖を捲り上げ、裾から延びた形のいい脚を非対称に広げて立ち、時間の始まりのご褒美のような最初のひとすすりにゆっくりと取り掛かっている。淡い光の中で輪郭のはっきりしない後ろ姿が神々しくて、青木は少し眩しくなり目を細めた。声をかけずに眺めていたかった。白い花、赤い実、薄緑色の生豆を経てこの部屋にもたらされた濃い色の飲み物が、美しい人の唇を濡らし、喉を通り過ぎていく。ゆうべ青木が触れ、入っていった愛しいからだを、深いほろ苦さが満たしていくのが見えた。

 あの人はもうすぐ振り返る。そして俺を見つけて微笑む。こんな寛いだ朝の恋人同士にしかわからないほどかすかに、やさしく嬉しそうに微笑んでくれる。待ち遠しいあの人の瞳、夜に俺の口づけで閉じた瞳、あの琥珀の瞳がもうすぐ俺を見る。そして透き通った声が名前を呼んだら、俺は答えるんだ。

 おはようございます。今日もあなたを愛してます、って。

 

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